71歳、年金5万円で暮らす女性の明るく賢い節約生活の秘訣

暮らし

公開日:2022/9/21

71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活
71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(紫苑/大和書房)

 母が購読をしている『ハルメク』という雑誌を隅から隅まで読んでいる。まだ対象年齢ではないが、親の怪我や健康、それから経済状況など先々が気になり、若いうちは知らないことを今から知りたいと思ったことがきっかけで手に取った。読んでみるとなかなか面白く、転ばぬ先のハルメクだと配達されたビニールを破っている。

 毎月読んでいる中で、紫苑さんという国民年金で暮らす女性のインタビューがとても印象に残った。『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(紫苑/大和書房)はその名の通り、受給できる国民年金・月5万円で暮らしている71歳の紫苑さんが節約生活、衣食住をどうしているのかを綴った本である。

軽やかで、知恵を絞った生活はもはや「憧れ」

「今が一番幸せ」という紫苑さん。もちろんすべてが参考になるわけではない。一人暮らしとは言え、お子さんがいる方であり、そもそも貯金をはたいて中古住宅を買い、住居費がかかっていないそうだ。月5万円で暮らせる大きな要因であることは間違いない。

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 ただ、干し野菜を作ったり、缶詰を活用したりといった節約自炊生活や、必要のないものは遣わないといいった見栄に振り回されないまさに「自分軸」の生き方は非常に参考になる。

 毎月の支出まで公開する、自らがお金のことを学んでこなかったという後悔まで包み隠さずあっさりと話す潔さは、もはや憧れてしまう。

節約とは限りあるお金をどんなふうに「遣う」かを考え抜く知的な行為なんですね。

 この一言が、自分の持っていた偏見とコンプレックスをそっと解いてくれる。

魅力的な文体が読む時間をゆったりとさせてくれる

どんなに欲しい、どんなに好きでも、体や毎日の生活に支障をきたさないほどにしておく。大きな欲望に呑みこまれることなく、小さな好きを重ねていく。

 紫苑さんはこう語る。その生活にはメイクをしない、スキンケアは最小限、テレビは見ないなど、多少極端な部分があり、冒頭に言ったようにすべてを真似するのは難しい。ただし、紫苑さんはそれを強制するわけではなく、柔らかに「私はこうしている」と語る。その文体もとても魅力的だ。

「何々をしないと損」「何々をしないなんてありえない」。私たちはテレビやSNSで、毎日とても強い言葉にさらされている。人間はどうしても損を怖がる生き物だから、刺激の強さを無理やりにでも飲み込んでその情報を得ようとしてしまう。

 多分無意識にとても疲れている我々に、紫苑さんの優しい柔らかな口当たりの文章は、すっとしみる。おばあちゃんではなく「大人の女性」が、世の中にも、人にもいろいろあることを冷静に受け止めながら、自分にできることをやっている。とても美しいと思うし、読んでいてとてもゆったりした気持ちになった。

生き方は自分次第。まずは考えるところから

 将来が不安になり、絶望し、ときにはもう早めに死んだほうが幸せなんじゃないのとすら思うこのご時世。

 大切なのは、現状に不満を述べるだけではなく、自分でなんとかしようと思うこと。そして何より、自分で楽しもうとすること。紫苑さんの楽しそうな節約生活は、自らの意思の大切さを教えてくれる。

文=宇野なおみ

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