大泉洋・柴咲コウ・有村架純・目黒蓮(SnowMan)が共演! 映画『月の満ち欠け』の胸キュンポイントを原作小説から見る

文芸・カルチャー

更新日:2022/9/26

月の満ち欠け
月の満ち欠け』(佐藤正午/岩波書店)

※この記事は作品のネタバレ・内容を含みます。ご注意の上お読みください。

 大泉洋さんが主演、有村架純さん、目黒蓮さん(SnowMan)、柴咲コウさんが共演することで話題を集める映画『月の満ち欠け』が12月に公開されます。特に目黒蓮さんは10月からNHKの朝の連続テレビ小説『舞いあがれ!』とフジテレビ系ドラマ『silent』が放送スタート、来年にも映画が公開予定と、今まさに注目が集まりつつある存在。目黒さん演じる三角哲彦と有村さん演じる正木瑠璃の許されざる恋、そしてその後の顛末に注目している方も多いのではないでしょうか。そんな映画の原作であり、直木賞受賞作でもある佐藤正午さんの同名の原作小説『月の満ち欠け』(佐藤正午/岩波書店)の見どころとキュンとしてしまうポイントを紹介していきます。

初めての恋人へ向ける、純粋な愛

 時系列順に考えると、本作の始まりは大学生・三角哲彦の純粋な恋心。大学進学を機に上京してきた三角は、アルバイト先のビデオ店で偶然正木瑠璃と出会います。出会った瞬間から瑠璃のことが気になる三角ですが、恋愛経験が乏しいため連絡先どころか名前も聞くこともできず。偶然の再会を願って、彼女が「暇つぶしによく行く」と言っていた映画館に通い詰めます。その後無事再会したのちのデートの約束も、三角の家に行くことになったきっかけも、すべて瑠璃から。そんな瑠璃への好意は本人にも伝わるほどあふれ出ているのに、作中の言葉でいう「垢ぬけた機転」が利かない三角の不器用さが愛おしく、胸キュン間違いなしです。

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 またそうしてふたりは結ばれたものの、瑠璃はその後姿を消してしまいます。それは瑠璃が人妻であるからなのですが、ここから三角は一変。ストレートに自分の恋心をあらわしていきます。それもまた駆け引きのできない三角の不器用さによるもので、ここまで直球の愛を示される瑠璃が羨ましく感じるほど。初めて愛した人にひたすら向ける気持ちは純粋そのもので、本作の鍵のひとつとなっています。

“生まれ変わってもまた同じ人と恋をしたい”という強い恋心

 そしてもうひとつ、物語を動かしていくのは瑠璃の「もしも死んだら、生まれ変わってまた三角と出会いたい」という強い気持ちです。瑠璃はその一心で何度も生まれ変わり、その度に“瑠璃”と名付けてもらい、前世の記憶や人脈を駆使して三角との再会を果たそうとします。

 二度目の瑠璃の父と母である小山内堅(大泉洋)や梢(柴咲コウ)は、まだ子どもの“瑠璃”が三角に会うためにする行動が不可思議で、戸惑うばかり。周囲の大人の目には不審にうつってしまうふるまいも、しかし、すべてを知って読むと、その強い気持ちの切なさが胸に迫ります。

 最初の出会いの時、三角と瑠璃が過ごした時間は、実はわずか半年ばかり。でもその短い期間の中で夫に話したこともなかったことを、三角には話せるまでに心をゆるしていた。そんな強い魂の響き合いがあったからこそ、三角に出会うために瑠璃は生まれ変わってくるのです。瑠璃のその思いは堅と梢、ふたりの人生にも影響を及ぼしていきます。

 登場人物の愛がひたむきに私たち読者の心を打つのは、やはり佐藤正午が紡ぐ物語だからこそ。あとがきに登場する伊坂幸太郎の言葉を借りるなら「小説センスの塊」である彼の状況描写や会話描写が、登場人物たちのほんの少しの戸惑いや揺れる思いを繊細に表現しています。そして夜明け間近の時間にだけ感じる、気だるくて、でも少し高揚した空気。お互いに好意を感じているけれども関係に名前がついていない時のもどかしくて、でも幸せな気持ち。そんな記憶の中に眠っていた感覚を、私たちの脳裏に鮮やかに描き出してくれるのです。

文=原智香

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