私たちはがんばりすぎている! まじめな育児に疲れた親必見! コミックエッセイ的な“逆説”育児書『世界一役に立たない育児書』

出産・子育て

更新日:2022/9/28

世界一役に立たない育児書
世界一役に立たない育児書』(かねもと/白泉社)

 子どもが大好きな公園から帰りたがらない…。夜も元気いっぱいで寝てくれない…。そんな時、すがるようにして育児書を参考にするのだが、わが子には当てはまらなかったり、難しすぎて実践できなかったり。役に立つこともあれば、役に立たないこともある。それなら、「役に立たない」と最初から銘打った育児書を読むのはどうだろうか。

世界一役に立たない育児書』(かねもと/白泉社)は、子育て中の漫画家・かねもとさんがSNSで発信していた投稿がもとになって誕生し、発売から約2週間で重版が決定したという話題の一冊。妊娠中から乳幼児のお世話までのリアルがわかり、読んだ人からは「最高の育児書」「心が軽くなった」という声が寄せられている。

 冒頭の一文によると、「まじめな育児で疲れたとき」や「眠いのに眠れないとき」に読むといいらしいのだが…。いざ読んでみると、これは子育てファミリーに必要な本だと確信したので、ここで本書の内容を少し紹介したい。

advertisement

世界一役に立たない育児書 P6-7

 幼い子どもを育てる親が「これが知りたい!」と思う悩みに寄り添ってくれる本書は、間違いなく「育児書」である。しかし、その内容は残念なことにまったく役に立たない…!

 たとえば、妊娠中にどんな体の変化があるのかを解説してくれるページ。みんなが気になる「つわり」について、「軽いか、ひどいかは、人それぞれです」と書かれている。「なるほど~! こんなふうにつわりの根拠と解消法を知っておけば心配ないよね!」という解説に期待していた人は、「うん、いや、そうだろうけど、そうだよね、そうきたか(笑)」と拍子抜けしたのでは?

 ちなみに、気になるのは最後の一文だ。「妊娠時の変化は人それぞれ。でも、お母さんはみんな命がけ」。

「お母さんはみんな命がけ」。つわりが軽かろうとひどかろうと、妊娠や出産が大変じゃない人なんてひとりもいないんだ…と本書が教えてくれる事実。

 いろんなことが不安な妊娠中は、「周りはどうなの? これって普通なの?」ってことが心配だったりするから、どっちにしろ大変、みんな大変、というこの一文を読むだけでも、つわりへの不安が和らぐような気がした。ん? この本、意外と役に立っている!?

世界一役に立たない育児書 P90-91

 育児書によくあるQ&A。もちろん本書にもある。たとえば、多くの親が経験するイヤイヤ期のこんな悩み。「公園が大好きでなかなか帰ってくれない子ども、どうやって連れ帰ればいい?」

 育児書にはよく「時計の針がここにきたら帰ろうね、と約束すると帰ってくれることがある」などと書かれているけれど、これがなかなか…。本書のアンサーはこうである。いつまでも帰ろうとせず、ダダをこねて地面に突っ伏してしまった子どもには、葉っぱや石などを飾って、アートにしてしまおう!

 このイラストを見て。突っ伏した子どもの可愛いこと。育児ってその場では本気でしんどいけど、こうして俯瞰で見ると、わがままを言う子どもって可愛いなあ…。こんなに可愛い子どもを連れ帰るのなんてもったいない。いっそのこと楽しんでしまおう。時には、そんな「ふまじめ」な育児があってもいいかもしれない。

世界一役に立たない育児書 P54-55

 子どものご飯、こんなにしんどいことはない(本当は色々あるけど)。しんどい理由は何かと聞かれたら…?

 まず、大人が好きで、なおかつ子どもが食べて栄養もあるメニューを考えるのは恐ろしく難しい。それに、調理中も子どもから目を離せないので時間はかけられない。さらに子どもが食べこぼす料理は極力避けたいし、かといって毎日同じメニューが続く罪悪感も…(以下、省略)

 そんなふうに、説明するのもしんどいくらい膨大な「料理がつらい理由」を事細かく解説してくれるのが、このページ。それが言いたかった、全部言ってくれてすっきりした、ありがとう!

 家族のご飯はけっして簡単ではないのだ。「ご飯は簡単でいいよ」と言ってくる人には、無言でさきほどのページを開いて見せるのがおすすめ。

世界一役に立たない育児書 P138-139

 巻末では「寝かしつけすごろく」の付録も楽しめる。目指すゴールは、子どもが寝てくれること。右ページにあるSPECIAL「家族が寝かしつけを代わってくれた」に行けたらラッキーで、無条件にゴールまで辿り着ける。

 しかし、それまでには「目を閉じているのでそ~っと布団から出ようとしたら、気配を察した子どもと目が合った」「寝たはずの子どもが暗闇の中で立っている」などの超難関(だけど日常)が待ち受けるので要注意。本当にゴールまで辿り着けるのか!? ふと、そんな不安でいっぱいになるすごろくである。

 本書はどのページを読んでも自分に当てはまるようで、「いつもこんなに頑張っているのか」と自分への慰めの気持ちがわきあがってくる。もう十分頑張っているし、たまには気を抜いてもいいよね、と心が軽くなってきた。

ママパパのストレスを解放する“逆説的”育児本

(あとがき引用)子育て中の親はいつも「役に立つ」育児情報を駆使し、困難な育児に立ち向かっている。本書を手に取ってくださった読者のみなさんは、きっと普段から真面目で、お子さんのためを思ってがんばって、がんばりすぎていると思います。(省略)みなさんの心が、少しでも軽くなりますように。この本は、役に立つことは何も言えない私からの精いっぱいのエールです。

 著者も私たちと同じように、育児書に助けられながらも、子どもの特性や環境の違いによってうまくいかず、逆に育児書に追い詰められた経験があるとか。本書には、「思い通りにいかないこともあるよね」と語りかけるような育児あるあるが綴られている。ぷっと笑えるイラスト満載で、コミックエッセイのように気軽に読めるのがうれしい。

 ふっと心が軽くなるので、「私には必要ない」とがんじがらめになっている人にこそ、本書をそっと手渡したい。きっと、否が応でも、ぱちっとスイッチオフしてくれる。役に立つことは書かれていないけど、めぐりめぐって、とても役に立つ育児書になるはずだ。

文=吉田あき

あわせて読みたい