「感覚過敏」を知っていますか? 大きな音や食べること、靴下が苦手…困りごとへのヒントが見つかる、16歳の当事者による1冊

出産・子育て

公開日:2022/10/4

感覚過敏の僕が感じる世界
感覚過敏の僕が感じる世界』(加藤路瑛/日本実業出版社)

「感覚過敏」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が過敏になっているために、日常生活に困難さをともなってしまう状態のこと。病名ではなくあくまでも「症状」なので、特に診断名があるわけでもなく、現状では治療方法があるわけでもない。感覚という外からはわかりにくいことだけになかなか理解されないが、実はこうした症状にひそかに苦しんでいる人は少なくないという。

 このほど、感覚過敏の当事者が、実体験をもとに感覚過敏について書いた本『感覚過敏の僕が感じる世界』(加藤路瑛/日本実業出版社)が出版された。感覚過敏を知るためのよきガイドとなるので紹介したい。

 著者の加藤路瑛さんは現在16歳。騒がしいところが苦手、食べることが苦手、靴下が苦手…小さな頃から多くの苦手に苦しみ「イヤイヤ」と拒否ばかりしてきたという。理由をきかれても説明できずに黙り込んで下を向くか「何かイヤ」と伝えるのが精一杯で、親にも「わがままな子」と怒られてばかり。そんな加藤さんが変わったのは、中学1年生のときに「感覚過敏」という言葉に出会ってからだ。

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 今まで誰にも理解されずに、何か違うと感じていたものの正体がわかったことを機に、加藤さんは自分の感覚に向き合い、そのつらさを少しずつ表現できるようになっていった。そして12歳で親子起業し、2020年、13歳で感覚過敏の困りごとを解決しようと「感覚過敏研究所」を設立した。

 本書はそんな加藤さんがこれまでの体験、そして現在の自分の状況をふまえて、感覚過敏のリアルを書いた1冊だ。16歳という大人と子どもの狭間の年齢だからこそ、幼い頃の「いやだったこと」や「困っていたこと」、「大人にしてもらって嬉しかったこと/してほしかったこと」などが素直に綴られており、「いつもわがままだと思っていたあの子、もしかして感覚過敏?」と、まだ言葉にできない子どもたちの生きづらさを発見する助けになるかもしれない。

 一般に感覚過敏の例としては次のような症状があげられる(ただし、これはほんの一例にすぎない)。

感覚過敏の僕が感じる世界 P15
『感覚過敏の僕が感じる世界』p.15より

「体調が悪くなる」とあるが、痛みや頭痛、吐き気などの身体症状があらわれたり、疲労を感じやすかったり、寝込んでしまったりと症状の出方はさまざまで、程度も人によって大きく違うという。極めてパーソナルな領域だけにわかりにくいが、本書は著者が当事者だけに感覚過敏のしんどさを「追体験」できるので理解が深まるはず。

 中にはこの本で「感覚過敏」という言葉に出会い、「自分の生きづらさの理由がわかった」と感じる当事者の方もいるかもしれない。本書には感覚過敏にどう対応するか、その具体的な方法も記されているので参考になるし、さらには進学についての試行錯誤や将来の展望なども語られており、この先を考えるヒントも見つかるかもしれない。

 そのほか、著者の母からのコメントや専門家によるアドバイスなど、当事者視点だけでない周囲の目線から「どうしたらいいか」についても知ることができる。こうした本をきっかけに感覚過敏を理解する人が1人でも増えることで、誰もが生きやすい社会の実現がまた少し近づくだろう。

文=荒井理恵

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