大人気警察小説シリーズ第3弾! 何重ものトラップの先に、想像を絶する展開が待ち受ける『犯人に告ぐ3 紅の影』

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/1

犯人に告ぐ3 紅の影
犯人に告ぐ3 紅の影』(雫井脩介/双葉社)

〈振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺の被害は、今や年間で数百億に達しているという。それはもう、一つの産業であり、一種の経済とも言っていい規模だ。〉――というのは、雫井脩介氏の小説『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』(双葉社)の一節。同書が刊行された2015年に比べて減少傾向にあるものの、2021年の被害総額は約278億円。認知件数は、4年ぶりに増加を見せ、コロナ禍の影響もあってか、医療費や保険料などの還付金詐欺が急増したという。

 いつの世も、人の心の弱さやさみしさに、詐欺師はつけこむ。『犯人に告ぐ2』では、振り込め詐欺グループの一味が、詐欺の論理と経験を活かして大胆な誘拐ビジネスを画策。『犯人に告ぐ』(第1作)では劇場型捜査というやはり大胆な手法で誘拐事件に挑んだ特別捜査官・巻島史彦が、これに挑むという物語だった。得体のしれない誘拐犯との心理戦にハラハラさせられっぱなしだった『1』と『2』が決定的に異なるのは、犯人側の状況が赤裸々に描かれていたこと。

 理不尽な内定切りによって将来の希望を絶たれた砂山知樹という青年が、詐欺グループのブレーンでもある淡野という男と組んで誘拐ビジネスを企てる過程は、決して褒められたことではないが、騙されるほうだけでなく、騙す側の弱さも浮き彫りにしていくのが、本シリーズの読みどころのひとつだ。正義は、間違いなく巻島のほうにあるのだから、犯人に出し抜かれることなく、一歩先をいって、捕まえてほしいと読みながら願う。それと同じくらい、もしかしたらそれ以上に、知樹に捕まってほしくないと願う気持ちも、ページをめくるごとに増していくのだ。

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 このたび文庫化された『犯人に告ぐ3 紅の影』も、同じ。『2』では、目的のためなら人の命を奪うことにもなんら躊躇しない冷徹な人物として描かれていた淡野に、妙に肩入れしながら読まされてしまうのである。

 レスティンピース(Rest In Peace)――「安らかに眠れ」が淡野の口癖だ。その言葉を告げられた人物は、“終わり”から逃れることができない。捕まるか、あるいは、死か。そのことを知っている警察は淡野を「リップ(RIP)マン」と名づけ、行方を追い続けていた。『2』では、知樹とその弟に対してだけ、時折、かすかに人間らしい表情を見せることもあったが、『3』では、ある女性の存在を通じて、より彼の内面に踏み込んだ情景が描かれていく。そしてある人物との出会いによって心をくじかれた淡野は、長年のボスである“ワイズマン”に指示された五千万円を奪う犯罪計画を最後に、引退しようと決めるのだが……。

 一方の巻島は、最新AIシステムと人海戦術を駆使した包囲網で追い込んだ淡野を、『1』を彷彿とさせる再びの劇場型捜査で挑発する。ウェブメディアを通じて、対峙する巻島と淡野。果たしてそのどちらに軍配があがるのかは、最後まで読めない。雫井氏が仕掛けた何重ものトラップをかいくぐった先に見えた景色は、想像以上に胸を打たれるもので、言葉を失った。サスペンスだけでない、人間の心理を巧みに描き出す雫井氏ならではの、シリーズ最高傑作ともいえるだろう。……どう考えても続編があるに決まっているラストなので、『4』の刊行も待たれる。

文=立花もも

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