『わたしの幸せな結婚』著者がおくる中華ファンタジー! 恋と仕事が急展開を見せる『宮廷のまじない師』最新巻

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/5

宮廷のまじない師
宮廷のまじない師』(顎木あくみ/ポプラ社)

 シリーズ累計500万部を突破し、テレビアニメ化や実写映画化も決定している大ヒット作の『わたしの幸せな結婚』。著者の顎木あくみ氏がおくるもう一つのシリーズ『宮廷のまじない師』(ポプラ社)も、現在好調だ。

 明治・大正期を舞台に、王道のシンデレラストーリー×異能バトルを展開する『わたしの幸せな結婚』。かたや『宮廷のまじない師』では、中華風の陵国を舞台に、眉目秀麗な若き皇帝と庶民育ちのまじない師の身分違いの恋や、呪いや妖が絡む怪異事件が描かれていく。作者の持ち味である切ないラブロマンスは本作でも健在で、巻を重ねるごとに明かされる壮大なファンタジー世界からも目が離せない。シリーズの概要を簡単に紹介しつつ、最新巻の『宮廷のまじない師 新米巫女と猩猩の鳴く夜』の見どころにも触れていきたい。

 主人公の李珠華(りしゅか)は、白髪に赤い瞳の容姿を忌み嫌った親に捨てられ、街で店を構えるまじない師に育てられた少女。まじない師見習いとして働く珠華の店に、皇帝の劉白焔(りゅうはくえん)がお忍びで訪れたことで、彼女の運命は一変する。珠華の腕を見込んだ白焔は、自身にかけられた呪いを解くことと、後宮で起きている怪異事件の解決を依頼。偽の妃として後宮に入った珠華は、女の園に潜む陰謀を暴き出す。その後も珠華は、国の重要な祭事である「星の大祭」にまつわる幽霊の噂の真相を明かすなど、白焔の力になるべく活躍を続けるのであった。

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 最新巻では、在野のまじない師の立場に限界を感じた珠華が宮廷巫女となる決心を固め、儀式やまじないを司る祠部の採用試験に挑戦するという、新たな一歩を踏み出していく。珠華は見事合格を果たすが、なぜか幼馴染である乾物屋の放蕩息子・張子軌(ちょうしき)も占師見習いとして一緒に出仕することに。能天気な幼馴染の存在に悩まされつつ、珠華は研修の指導役である優秀な宮廷神官・羽宝和とともに、初仕事となる怪異事件に立ち向かっていくのだが……。

 特異な容姿に生まれたために自己評価が低い少女が、皇帝との出会いを通じて変わりはじめ、一流のまじない師となって彼を支えていきたいと願う。シリーズの真骨頂ともいえる珠華の心の成長と戦いは本巻でも遺憾なく発揮されていく。珠華は本巻の中心となる事件を解決へ導く中で、個人の感情だけでは動けない宮廷巫女の仕事の難しさに直面することになる。また、身分が違うことを理由に珠華は白焔への恋心を隠し通そうとするが、その決意は自分だけのまじない師でいてほしかったと願う彼の思いとすれ違ってしまう。共に惹かれあいながらも、亀裂が生まれつつある二人の姿は、さらなる波乱の幕開けを予感させる。

 この巻の終盤では、物語の最初期から登場し、謎めいた存在感を放っていた幼馴染の子軌の正体がついに判明する。そして、陵国を興した皇帝と巫女に仕えたとされる伝説の「七宝将」、その一人の存在が新たに明らかとなる。シリーズを重ねる中で、千年前の建国にまつわる神話や歴史が少しずつひもとかれていき、物語はまたさらなる謎を呼び起こす。次の巻が早くも待ち遠しい。

文=嵯峨景子

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