朝ドラ『舞いあがれ!』の音楽担当が、作曲家を志したきっかけは映画『タイタニック』だった! 作編曲家達の色とりどりの“音楽人生”

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/10

音を織る 作編曲家たちの言の葉
音を織る 作編曲家たちの言の葉』(一般社団法人日本作編曲家協会(JCAA)/ネコ・パブリッシング)

 21世紀に入ってから携帯音楽プレーヤーや携帯電話の発達、インターネットやストリーミングサービスの充実などによって、古今東西の膨大な楽曲に簡単にアクセスできるようになり、新たな音楽との出会いは格段に増えた。これはもしタイムスリップをして、20世紀の人に「レコードショップを丸ごと持ち歩くような毎日を過ごしている」と言ったら「そんなバカなことあるかい?」と呆れられてしまうくらいの、とんでもない事態なのだ。また楽譜が読めなくても、楽器が弾けずとも、パソコン上で曲を作ったりアレンジしたりすることができるDTP(デスクトップミュージック)も発達した。しかしどれだけテクノロジーが発達しようとも、その膨大な曲のすべてのメロディやアレンジには、その曲を作った人や、編曲した人が存在しているのだ。

 誰もが簡単に曲へアクセスし、作ることができるようになった今だからこそ、音楽的素養に恵まれ、真摯に音楽を学び、譜面を書き、楽器を弾くプロが作る曲が持つ凄みは一層際立つ。名うてのメロディメーカーたちが1970~80年代に生み出した“シティ・ポップ”が世界的に流行しているのは、その証左だろう。

 そうしたプロの作編曲家たちが所属する「一般社団法人日本作編曲家協会(JCAA)」が設立から50周年を迎え、記念として大型・オールカラーの書籍『音を織る 作編曲家たちの言の葉』(日本作編曲家協会:編/ネコ・パブリッシング)を編纂した。JCAAはもともと1970年、編曲家のための組織として、当時20~30代の若手・中堅のアレンジャーが集まって作られた「アレンジャー協会」が母体となり、そこへ作曲家も加わって発足した団体だ。

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 本書は単なる記念本ではない。“言の葉”のタイトル通り、作編曲家55人へインタビューを行っているのだ。何がきっかけで音楽に興味を持ち、どんな音楽的な環境を経て、現在の仕事に就いたのか、プロが語る話は実に興味深い。またこれまでの活動について、そして現在使用している制作環境までたっぷりと語っている。親が音楽関係の仕事をしていた、いつも音楽が流れている家庭で育った、恩師との出会いなど、プロへの第一歩は様々だ。沢田研二『勝手にしやがれ』や少年隊『仮面舞踏会』などの編曲をした船山基紀さんは、社宅住まいのサラリーマン家庭に生まれたが、母親が「子供をピアニストにしたい」という思いがあったという。ところが船山さんは早々に退散、しかし妹さんが弾いている音を聴いていて耳が鍛えられたという。その後学校で恩師に出会い、音楽にのめり込んでいったそうだ。

 2022年10月から始まったNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の音楽を担当する富貴晴美さんは、これまで数々の映画やドラマの劇伴に携わってきた方だ。5歳からピアノを始め、映画好きな母親と一緒に映画を見た後にメロディを弾いて遊んでいて、作曲家になりたいと思ったのが小学校6年生で見た映画『タイタニック』だったというから驚きだ。また読んでいて個人的に一番ビックリした音楽人生はボブ佐久間さんだった。4歳頃からヴァイオリンを始めたところから一時は音楽を捨て……と紆余曲折を経て現在へと至る半生はぜひご本人のインタビューをお読みいただきたい。

 このインタビューの他にも、2021年に亡くなったすぎやまこういちさんが語るJCAAの誕生秘話や、クリエイターによる座談会、レジェンドたちの足跡、編曲とは何かを作編曲家の萩田光雄さんらが自ら解説するページや、巻末には会員の方へのインタビュー(音楽家になっていなかったら何になっていたか?など、こちらも面白い)など興味深い読み物がたっぷりある。また表紙に使われているのは、2020年に亡くなった服部克久さん作曲のテレビ番組『日曜特集・新世界紀行』テーマ曲『自由の大地』の直筆譜だ。

 普段は“音を織る”職人である音楽家たちの貴重な言葉、読めば日々の音楽鑑賞がもっと楽しくなる。音楽家を目指す方もぜひご一読を。

文=成田全(ナリタタモツ)

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