夫が脳出血で「失語症」に! 自ら言語聴覚士となった妻が描く、失語症の夫との日々

暮らし

公開日:2022/10/18

こう見えて失語症です
こう見えて失語症です』(米谷瑞恵:著、あらいぴろよ:マンガ/主婦の友社)

「失語症」をご存じだろうか? 脳卒中やケガなどで脳が損傷してしまったことが原因で、言葉のストックはあるのに「聴く」「話す」「読む」「書く」の場面でうまく使えなくなってしまうというもの。アメリカの有名俳優が失語症で引退したことが話題になったが、なかなか社会での認知や理解が進んでおらず、日々の生活に苦労している当事者の方も少なくないという。

こう見えて失語症です』(米谷瑞恵:著、あらいぴろよ:マンガ/主婦の友社)は、そんな失語症のことがよくわかる1冊。脳出血で失語症になった夫とその回復を見守り続けた妻の10年間を、ユーモラスなマンガと日々のエピソード満載で綴ったエッセイだ。

 フリーライターである著者の米谷さんの夫・加藤俊樹さんは、10年前の47歳のときに脳出血を起こし、一命をとりとめたものの失語症となってしまった。米谷さんは「地球上にはない『言葉』を発するオットは、まるで宇宙人みたいだった」と発症当時を冗談まじりに振り返るが、それはまだ「話せないけれど理解はできている」と思っていたからの楽観視でもあった。いざ言語聴覚士によるリハビリが始まってみると、実は夫は「鉛筆を持ってください」と言われてもなんのことかわからないなど、かなり「重度」の失語症だと判明。さすがに「かなり焦った」し、医者からは「完全に治ることはない」と言われるし、米谷さんは大ショックで落ち込んだ…かと思いきや、このご夫婦がスゴいのはそれでもポジティブ(ご本人曰く「能天気」)だったことだ。当事者である夫は障害があることに対する認識も薄くなっていたことが幸いし、嘆いたり悲しんだりすることなく、毎日ご機嫌でリハビリに励み、見守る妻はライターという「職業病」が幸いし、心配より失語症に対する好奇心が先にたって、なんと2年後には「言語聴覚士になろう」と進学&転職してしまうのだ!

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こう見えて失語症です P28

こう見えて失語症です P29

 そんなわけで本書では、いまや言語聴覚士という失語症のスペシャリストでもある著者が、当事者の妻という身内ならではの不安や困りごとをぶっちゃけつつも、それを専門家の客観的な視点から「この困りごとはどういう状態なのか」「周囲はどう対応したらいいのか」などとしっかりフォローしてくれる。当事者(やその家族)&専門家で病気などを解説する本はよくあるが、本書はそれが同一人物なわけで、細かい気配りレベルにまで目が行き届いているのはさすが。失語症に関する知識はもちろん、失語症の人にはどう対応したらいいのかなど、失語症についてよくわからなかった人にも役立つヒントがつまっているのだ。

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 ちなみに著者は失語症のことを「病み上がりなのに、突然言葉のわからない国に放り出されたようなもの」だという。だから相手の言葉も理解できなければ、自分の希望や気持ちを伝えることもできないのは当たり前。私たちもそれが相当にしんどい状況ということは容易に想像できるし、共感もできる。失語症の人たちと一緒に暮らしやすい社会を作るためにも、本書でこうした共感の種をいろいろ集めておくのは大事そうだ。

こう見えて失語症です P68

こう見えて失語症です P69

 夫の加藤さんは、その後、仕事にも復職。その道のりも詳しく紹介されているし、発症から10年でどう変わるのかなどもわかるので、同じ悩みを持つ方には大いに参考になるだろう。なにより何か問題が起きても簡単にあきらめたり悲嘆に暮れたりするのではなく、笑顔で再チャレンジしていく前向きな加藤さん(&著者)の姿は励みになるに違いない。ちなみに現在もご夫婦は明るく前向きに失語症と向きあっており、その様子をブログ「ウチの失語くん」、YouTube「失語症チャンネル」として発信し続けているとのこと。気になる方はそちらもぜひチェックしてみるといいだろう。

文=荒井理恵

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