大人気バディ×ホラー小説、待望の第2弾登場! 隻腕の見鬼とオカルト嫌いの県庁職員が怪異解決に挑む

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/19

夜行堂奇譚 弐
夜行堂奇譚 弐』(嗣人/産業編集センター)

 怪異。物の怪。妖魔——たとえ知覚できないとしても、そんな人ならざるものたちはこの世界でそっと息を潜めている。そして、私たち人間がこの世ではない領域へと足を踏み入れるのを今か今かと待ち侘びているのではないだろうか。

 今話題のホラー小説『夜行堂奇譚』(嗣人/産業編集センター)を読んでいると、自分のすぐそばにもそんな存在が潜んでいるように思えてくる。小説投稿サイトで注目を集め、YouTubeでも朗読動画が公開されるなど、高い人気を誇るこの作品は、書籍化されるやいなや、1カ月足らずで重版が決定。そして、このたび待望の続編『夜行堂奇譚 弐』(嗣人/産業編集センター)が刊行された。交通事故で右腕を失って以来、霊的な存在を視ることができるようになった桜千早と、オカルト嫌いなのに、県内の怪異現象を処理する「特別対策室」に所属する県庁職員・大野木龍臣。曰く付きのものばかり扱う骨董屋「夜行堂」の店主によって引き合わされたふたりを中心として描かれる怪異譚の数々は、これからますます多くの人の心を揺さぶるに違いない。

 人と怪異を繋ぐ骨董蒐集家、淡水が溢れ続ける謎の石、人の体に迷い込む雨を呼ぶ竜、自死を誘う皮表紙の本…。1巻同様、2巻にもありとあらゆる怪異譚が詰め込まれているが、中でも、刑事の視点で綴られる「穢瘡」という作品には背筋が凍った。床や壁、天井まで、夥しい量の血で染まった高層マンションの一室。その凄惨さに刑事たちが息を飲む中、隻腕の見鬼・千早と、県庁職員・大野木が現場を訪ねてくる。その部屋で発見された女の笑い顔が描かれた骨壷は呪具であり、警察の手には負えないと断言する彼らに、ベテラン刑事の権藤は反発。だが、骨壷から女の笑い声が聞こえると言う同僚の異変に彼は絶句する。赤黒く変色し、腫れ上がった顔面。肥大化した身体、張り詰めて膨らんだ指。目と耳から涙のように溢れ落ちる大量の血液…。霊的なものの存在を認めざるをえなくなった権藤は千早たちに協力を仰ぐことに。そして、次第に彼らは呪具が生まれる背景となった、とある村のおぞましい過去を知ることになる。

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 どの怪異譚も、ページをめくるたびにあまりの恐ろしさに声をあげそうになる。もちろん、人ならざるものそれ自体も怖い。だが、そんな存在を生み出すキッカケを作った、人間の悪意の方がよっぽど恐ろしいのだ。人間はなんて自分勝手で残酷な存在なのだろうか。霊的な存在たちが生まれるに至ったあまりにも悲惨な過去を知れば、そんなものたちに同情の念さえ湧いてくる。しかし、この物語は人間の暗部ばかりを描き出すわけではない。千早や大野木をはじめとして、自分の身を顧みずに誰かを救おうとする者たちの姿を描き出すことで、「人間も捨てたものではないはずだ」と思わせてくれる。そして、おぞましく恐ろしい怪異譚は、そのどれもがクライマックスには色彩豊かで美しい情景をみせてくれる。それもまたこの作品の魅力といえるかもしれない。

 さらに、2巻には千早と大野木の姿だけではなく、彼らが出会う前のエピソードや、千早の師である帯刀老や女霊能者・柊など、他の登場人物たちのエピソードも。1巻と続けて読めば、登場人物たちの姿がどんどん立体的になっていき、より千早と大野木の絆が深く感じられる。人間たちによって理不尽に奪われた命が生み出した恐ろしくも悲しい霊的な存在と、それに立ち向かう登場人物たちの生き生きとした掛け合い。それを追ううちに気づけば『夜行堂奇譚』の世界にすっかりハマり込んでしまう。

 深夜に読むと間違いなく眠れなくなってしまう。だけれども、たまにはそんな夜があってもいいだろう。秋の夜長にこそ、あなたも身の毛のよだつ怪異の世界を覗き見てはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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