やります、やれます、やってみせます! 下町ヤンキーが市長選挙戦に立ち向かう、政治マンガの傑作『クニミツの政』珠玉のエピソード3選!

マンガ

公開日:2022/10/21

クニミツの政』(安童夕馬:原作、朝基まさし:作画/講談社)

政治に苦手意識があるあなたへ

 学生の頃は、政治にまったく興味を持てませんでした。専門用語が多いし、仕組みも複雑。「選挙の日って うちじゃなぜか 投票行って外食行くんだ」という歌のフレーズが、最も身近な選挙という言葉でした。そんな私がなぜ政治に興味を持ち、面白いとまで思えるようになったのか。きっかけはやはり漫画。『クニミツの政』(安童夕馬:原作、朝基まさし:作画/講談社)です。

 本作が『週刊少年マガジン』で連載されていたのは、2001年~2005年。『サイコメトラーEIJI』のスピンオフ作品で、当時ドラマ化もされました。ちなみに主演は押尾学さん。懐かしいですね。

 今から20年近く前の作品なので、時代背景はかなり変わってはいるものの、政治の根本にある考え方は普遍。なので、今読んでもちゃんと勉強になります。

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 舞台は、架空の街、新千葉ヶ崎。とある事件がきっかけで政治に目覚めた下町のヤンキー、武藤国光は、政治家浪人である坂上竜馬の秘書となって新千葉ヶ崎市の市長選挙を争うことに。天性の強運とカリスマ性を持った“クニミツ”が、坂上が乗った神輿をかつぎ、「政(まつり)」に飛び込んでいくというストーリーです。

 中学時代からバリバリのヤンキーだったクニミツは、もちろん勉強ができません。おまけにカネなし、コネもなし。そんなクニミツだからこそ、誰もが思いも寄らない方法で坂上陣営を引っ張っていきます。

 あるときは、高校の生徒になりすまして生徒会選挙の応援をはじめます。生徒会といえど、選挙は選挙。クニミツはここで選挙の構造や戦略を学ぶのです。またあるときは、小学校教師になりすまし、公立小学校が抱える教育問題に真っ向から挑んでいきます。

 政治家秘書なのに、なりすましなんかして大丈夫? と思いますよね。でもこんなのまだ可愛いほうで、必要に迫られれば、体にダイナマイトを巻いてヤクザ事務所に突っ込んでいくことも。とにかくヤベェやつなのです。

 しかし、その一方で、素直でひたむきな面も持ち合わせています。選挙戦を勝ち抜く戦略として、手打ちそばの売り込みに行ったクニミツは、店の社長に「翌朝までに手打ちそば2800食用意しろ」という無理難題を出されます。

 さすがに無理だと諦めモードの中、クニミツだけは真っ直ぐな瞳で、「やります やれます やってみせます!」と返すのです。そして本当に実現してしまうわけですね。名シーンです。

 類語に芸人みやぞんの「やります やらせてください」がありますが、こういう言葉が出る人からは、やはり底知れない強さを感じます。

預かった供託金をギャンブルですべて失う

『クニミツの政』では、クニミツが体を張って、政治について教えてくれます。中でも珠玉のエピソード3選をご紹介しましょう。

市長選のための100万円の供託金を全額失う

 坂上が市長候補として立候補するための供託金100万円を預かったクニミツ。しかし、うっかり1万円札を落としてしまいます。お金が足りないことに気づいたクニミツは、慌ててパチンコで1万円を作ろうとしますが、失敗。負けた分を取り返そうと競馬、麻雀に大金をツッコみ、さらにマイナスに。詐欺師にも騙され、気づけば手元には2万円しか残っていません。絶望するクニミツの前に現れたのは、「2万円を貸してください」と土下座する男性。悩んだ挙げ句、クニミツは「2万円をオレッチがもってても…98万円たりねぇオレッチにとっちゃあ焼け石に水」というバカの極みのような思考で、残りの2万円も渡してしまいます。

 短時間のうちに供託金100万円をすべて失ったクニミツですが、偶然、誘拐犯のアジトを発見。犯人逮捕に協力した御礼に100万円をゲットし、無事事なきを得ます。絶体絶命の状況も、持ち前の強運で乗り越えるのでした。

ハンドパワーでワイロを送りつけてくるマジシャン

 告示日を目前にしたある日、坂上事務所に、パンや卵などの食べ物が入った箱が届きます。クニミツは良かれと思ってボランティアスタッフに配るのですが、なんとその中には「市長選挙の投票は坂上竜馬に」という選挙違反丸出しのメモと、1万円札が隠されていたのです。じつはこれ、敵陣営が用意したマジシャンの仕業。このままでは支援者への買収行為とみなされ、選挙どころか逮捕される可能性も。

 しかし、クニミツの相棒であり、選挙参謀でもある光明(コーメイ)の機転によって、難を逃れます。

 マジシャンがハンドパワーで無理やりワイロを握らせるなんて聞いたことがありませんが、実際あったら防ぐのは難しそうです。

選挙カーがないなら神輿を担げばいいじゃない

 選挙活動最終日の前夜。敵陣営の罠で、坂上陣営は選挙カーを失ってしまいます。クニミツは「みんなで練り歩けば、選挙カーより目立つ」と提案しますが、それは選挙違反。公職選挙法第140条「気勢を張る行為の禁止」で、「何人も、選挙運動のため、自動車を連ね又は隊伍を組んで往来する等によって気勢を張る行為をすることができない」と決められています。大人数で歩いて街宣するのは選挙違反なんですね。もはや打つ手なし…かと思いきや、クニミツは諦めません。

 坂上を乗せた神輿を1人で担いで練り歩くことにしたのです。クニミツのひとり神輿を見るため町中の人が集まり、結果的には選挙カーより目立つ街宣となったのでした。

 宗教や医療の問題にも深く切り込んだ、政治マンガの傑作『クニミツの政』は全27巻。政治の入門書としてはもちろん、学び直しにもおすすめの作品です。

文=中村未来

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