「大切な人とのお別れ」をどう迎えるべき? 「ツアーナース」シリーズで人気の看護師で漫画家の著者が描く、“死を迎える人”と“見送る人”の覚悟

マンガ

公開日:2022/10/26

いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと
いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと』(明/集英社)

 あなたは、自分の最期をどんなふうに迎えたいと思うだろうか。また、大切な人の最期をどんなふうに見送りたいと思うだろうか。

「漫画家しながらツアーナースしています。」シリーズの著者で、看護師をしながら漫画を描く明さんは、このほど、『いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと』(集英社)を上梓した。そこには、病棟看護師として現場で学んだ「生」と「死」にまつわる物語が描かれている。

 大切な人とのお別れが迫った時、多くの人は、できるだけ長く生きてほしいと願うだろう。そのために積極的な治療を受けさせたいと考えることもあると思う。しかし、それが必ずしも本人の願う生活や生き方と一致するわけではないようだ。

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いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと p99

いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと p100

 90歳の村田さんは手術を受けたばかり。しかし手術後にリハビリを拒否することが多く、ある日「みんなが望むから手術したのよ。でも本当は手術なんかせず、静かに逝きたかった」とつぶやく。元気でいてほしい、良くなってほしい、と話す家族を前にすると、本音を言えなかったようだ。

 その後、家族で話し合いの場が持たれた。自分では家族に本音を伝えられない村田さんは、看護師長に代弁してもらい、積極的な治療をやめ、療養型の病院に転院することになる。転院の日、息子さんは「僕は何もできないのか…」と無力につぶやいたとか。

 この一件で、著者は、「どちらの気持ちもわかるからこそつらい」と語っている。そして、“これまでも、日和見になって誰かを我慢させたことがあったかもしれない”と反省すると同時に、普段から本音を言える関係を作っておくことが大切なのだと気づいたそうだ。

 そんなある日、著者は自身の祖母とのお別れを経験する。大好きな祖母とのお別れが迫り、幸せだと思ってもらえる最期の時間について想いをめぐらす著者。これまでの看護の現場=「いのちの教室」で学んできたことが糧となったという。

いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと p148

 その際、祖母の気持ちだけではなく、自分を含め、残された人たちがお別れのあとも生きていくために必要なことにも目を向けたそうだ。

いのちの教室 あなたの最期が私に教えてくれたこと p152

 日程調整をして、祖母が孫やひ孫に会える時間を作ったという著者。自己満足かもしれないが、その日の思い出があるからこそ、今でも祖母を失った悲しみに向き合えているとか。

お別れを迎える前の心構えに

(あとがきの引用)「看取りもお別れもつらい、それは変えられない」「でも、そのつらさを少しでも楽にすることはできるんじゃないか、それが看護なんじゃないか?」

 命の重みに押しつぶされそうになり、時には辞めようと思いながらも、看護師を続けている著者。本書には、リアルな看護の現場で感じる後悔や葛藤も率直に、包み隠さず、しっかりと描かれている。だからこそ共感でき、それだけ人の心を大きく動かしてしまう命の重みについて、読む側もまた考えさせられる。

 そして、ひとつとして同じお別れはないことに気づく。自分や、自分の大切な人は、どんな最期を迎えるのが幸せなのだろうか。本書でさまざまなケースを知っておくと、お別れへの向き合い方が変わってくるかもしれない。

 医療の現場だけでなく、著者が自分の命の大切さにも向き合い、漫画家として独立するまでの成長物語も描かれている。温かみのあるイラストと明るいタッチで、泣けるのに重すぎず、何度も読み返したい1冊である。

文=吉田あき

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