ライオンと一緒に暮らすとしたら…必要な施設は? 食事の量は? 旭山動物園の元園長が指南する、動物たちとの“暮らし方”

暮らし

更新日:2022/11/3

もしもあの動物と暮らしたら!?
もしもあの動物と暮らしたら!?』(小菅正夫/新星出版社)

 もし、ライオンやヒョウ、チーターを自宅に迎えられるとしたら、どんなお世話をすればいいのだろうか…。猫好きでネコ科動物にも目がない筆者は、動物園の檻の前で、そんな空想に耽ったことが何度かある。

 現実的に飼えないことはわかっている。けれど、その“もしも”を夢見る時間が好きだった。

 だから、『もしもあの動物と暮らしたら!?』(小菅正夫/新星出版社)に出会った時、より具体的に大好きな動物との暮らしを想像できる書籍があることに感動したのだ。

 本書は動物園でよく見かけるホッキョクグマやキリン、ゾウ、ライオンなど25種の動物と“もしも一緒に暮らしたら”をテーマに、迎え方や適切な生活環境、食事、遊び方などを具体的に解説している斬新な1冊。

 しかも、著者は北海道にある旭山動物園の園長を務めた、小菅正夫氏。旭山動物園といえば、人が見たい行動を動物に押しつけるのではなく、動物が本来持っている能力、美しさを自然に誘発し、来場者に見てもらうという「行動展示」を実践していることで有名だ。

 小菅氏は行動展示を取り入れ、廃園の危機に直面していた旭山動物園を救った人物。動物の種ごとの特徴を熟知しているからこそ語ることができた、限りなくリアルな“もしも”が本書には詰め込まれている。

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百獣の王・ライオンの食事は、1日当たり5~10kgの馬肉や牛肉

 誰もが認める百獣の王、ライオン。そんな王様を迎えるにはまず、飼育許可を得るべく、都道府県か政令市の担当課に相談。飼育施設や飼養管理の細かな条件をクリアして、初めて購入できる。

 飼育する上で準備しておきたいのが、鉄筋コンクリートと金属製の檻。人が出入りする扉は2重にし、どちらか一方は必ず施錠して脱走を防止。カギは、すべての扉に3個ずつ設けよう。

 そして、日光浴ができるよう、芝生を敷いた屋外放飼場も用意。檻に枝がかぶさるように樹木を植え、木陰も作ってあげるとよいのだそう。子どもの頃は高いところに登りたがるため、高さ1m程度になるよう、丸太を組んであげよう。

 食事は1日当たり5~10kgを目安に、馬肉や牛肉を。週に1度はブロイラー(鶏肉)、月に1度は牛のろっ骨を適量与えるのもポイントだ。

 ライオンは野生だと動物を丸々1頭食べるので、必要とする栄養量が多い。そのため、レバーや内臓、タン、骨なども与えることが大切だという。

 ちなみに、ライオンの子どもはソフトボールなどで遊ぶが、大人になると徐々に興味を示さなくなるので、ボタンを押すと音が鳴る「クリッカー」という道具を用いたクリッカートレーニングや、動物の前に棒や手を差し出して鼻・お尻など、体の一部を触れさせる「ターゲットトレーニング」を遊びとするのがよいよう。

 まるごとプレゼントした牛の大腿骨を鎖で固定して与えるという、時間をかけて食事ができる工夫も遊びのひとつになると、小管氏は語る。

 やはり百獣の王の飼育は、一筋縄ではいかない…。そう思わせられる驚きが本書にはたくさん詰め込まれており、改めてネコとの違いを痛感させられた。

ペンギンの飼育には2カ所のプールが必須

 お散歩タイムが愛くるしいペンギンは、動物園の人気者。迎える際はまず、冷暖房を完備し、直径35mmほどの玉砂利を厚さ5cmほど敷いたコンクリート造りの寝室と、陸地部分に滑り止め対策を施した放飼場を用意。

 どちらにもプールが必要で、放飼場のプールは最低でも広さ100平方メートル、深さ3mは確保。多くのペンギンは体を起こしながら上陸するため、なだらかな上陸場所も用意しよう。

 食事はアジ、イカナゴ、ホッケなどの魚や甲殻類、イカといった魚介類全般。水中に投げ入れるのではなく、手から直接食べさせると、食欲不振をただちに発見できるそう。

 なお、食事後、頭を激しく左右に振るのは過剰に摂取した塩分を「塩涙腺」という特殊な器官から振り飛ばそうとしている行為であるので、心配しなくてもよいのだとか。こんな風に、飼育法に加えて動物の特徴や生態が学べるのも本書の良さだ。

 誤解なきよう明記しておくが、本書は動物の生態や行動の奥深さ、飼育の面白さを伝えるものであり、決して野生動物の飼育や乱獲を推奨しているわけではない。図鑑より身近な視点で動物のことが詳しくわかるので、少し遠い存在に思えていた動物園の動物たちの命の尊さに改めて気づける1冊であると思う。

 私の推し動物を、もし迎えたなら…。そう、空想しながら楽しんでみてほしい。

文=古川諭香

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