原発は必要と思っている人にこそ読んでほしい「中の人」による貴重な記録

更新日:2012/12/6

東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:菅直人 価格:882円

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菅直人元総理が東電福島原発事故当時について綴った手記。いろいろ毀誉褒貶の激しい方だが、この事故渦中の当事者中の当事者。もう一方の当事者である東電本社からは木で鼻をくくったような回答しかない現在では大変に貴重な記録である。

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東電首脳陣の不甲斐なさは本書でも目を覆うばかりだが、官邸もどれだけ混乱していたものか、枝野官房長官(当時)の会見はどのように行われたのか、細野氏が原発担当大臣(当時)になった経緯など舞台裏がわかり興味深い。また、のちに首相が現場へ乗り込んだことで批判されたが福島原発がどのような惨状であったかも手に取るようにわかる。東電でも吉田所長のような現場の人々の努力と犠牲についても明記されている。

驚くべきは、事故が収束せず4号機の使用済み核燃料プールから放射性物質が放出された場合のシミュレーションである。もしもあのとき東電が事故の後始末もせずに(まだできていないが)撤退していたら、東京都までも島嶼部以外は被害区域に入っていたのだ。東日本壊滅の危機だったのだ。

そもそも福島の事故は人災であった。災害に対して想定外とか無防備であったとかいうのは言い訳にもならない。つまり準備を怠っていたのだ。準備を怠っていたのは、原発産業から研究費を受けている学者からの安全という言葉のみを鵜呑みにして、危険性をまったく検証してこなかったからだ。少なくとも危険性を検証して安全対策へのコストをかけていれば、あのような事故にはならなかった。

たとえば、東北電力の女川原子力発電所は小火を出した程度で福島のような大惨事にはなっていない。が、安全対策や放射性物質漏れを防ぐコスト、放射性廃棄物を保管するコストを上乗せしていれば「原発は安いエネルギー」とは口が裂けても言えなかったはずだ。その、原子力ムラの作り上げた安全神話に政官財がどのように乗っていったかについても反省を込めて論じられている。

原発について民主党は絶対反対と著者個人ではなく党の話題が混ざってきたりどちらかといえば弁明と取れる箇所もあるが、あの事故がどのようなものであったかを知るために読んでおくべきではないだろうか。著者について思うことがある方も、せめて519ページ以降からでもよい、ご一読をおすすめする。


最悪のシミュレーション。移転希望区域には東京都がほぼすっぽり入ってしまう。皇室の方々にどうしていただくかも著者は考えたという

「安全神話」を作り上げるために事故を収束させる組織すらなかった。しかし、監視も批判もせず平気で騙されていた国民にも責任がないとは言えない

東電の対応はすべて後手に回った。電源車のプラグすら把握できていなかったことはTVを見ていた私たちにもショックだった

「爆発はない」と言い切った直後の爆発。班目委員長は超手で顔を覆うしかなかった。彼も原発事故訴訟では東電首脳部とともに被告となっている

原発のリスクをどの程度のものとして考えるか、既得権益集団である原子力ムラの言い分はどこまで正しいのか