コミカライズも好評! 鬼霊の視える少女が後宮の事件に挑む中華風ファンタジー

文芸・カルチャー

公開日:2022/11/8

百華後宮鬼譚 皇帝暗殺の謀略!? 下働きの娘、巣立ちのとき
百華後宮鬼譚 皇帝暗殺の謀略!? 下働きの娘、巣立ちのとき』(霜月りつ/ポプラ社)

 コミック版も大人気の、霜月りつ氏のあやかし×中華風後宮ファンタジー『百華後宮鬼譚』(ポプラ社)。最新刊の『百華後宮鬼譚 皇帝暗殺の謀略!? 下働きの娘、巣立ちのとき』が発売となり、物語はクライマックスを迎えた。

 15歳の甜花(テンファ)は、生まれつき鬼霊を視ることができる才を持つ少女。彼女は幼い頃、「知の巨人」と呼ばれた元宮廷博物官で数多くの蔵書を所有する士暮(シグレ)に拾われ、孫娘として育てられた。本好きに成長した甜花は、祖父の死後、遺された書物を後宮の図書宮に納めたうえで、自身もそこで働く書仕を目指そうとする。

 そのためにまずは後宮の下働きとして潜り込むが、なぜか若き皇帝・璃英(リエイ)の第九座の妃・陽湖(ヨウコ)に仕える下働きとして抜擢されてしまう。魅力的だがどこか風変わりな陽湖のもとで働くことになった甜花は、後宮で起きる不思議な事件を通じて皇帝とも関わるようになり、運命が大きく動き出す。

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 甜花の人ならざる異形を視る力と、読書量に裏打ちされた推察力は、最新刊でも健在だ。図書宮に出入りするようになった甜花は、稀覯本が納められた部屋の中で、奇妙な死を遂げた修繕部の書仕の幽鬼と遭遇した。何かを探しているように見える女の手伝いをするよう皇帝に命じられ、甜花は幽鬼の探しものと密室の謎に挑む。真相とともに明らかになる、死者が最後に残した想いとは――。

 他にも、皇帝と妃たちが船遊びをするために出かけた白大河で、甜花は他の妃に下働きとして仕える翠梢(スイショウ)と知り合う。主人から嫌がらせを受けていた翠梢は行方不明となり、崖から転落した死体として発見された。龍神を祀る家系に生まれ、何代にもわたって巫女を務めてきたという彼女の死後、魚にまつわる怪異が生じる。

 そして本巻のハイライトといえるのが、甜花の誘拐と、彼女を人質に取られた陽湖が皇帝暗殺に加担する「第四話 甜花、書仕になる」。陽湖にはある大きな秘密があり、とある理由から妃になりすまし、甜花を見守っているのである。シリーズのキーパーソンである陽湖は、本巻でも八面六臂の活躍をみせ、さまざまな形で甜花を支えていく。

 理解ある主人のもとで仕事に励む甜花と、訳ありの妃がみせる絆は、本作の大きな読みどころだ。“溺愛”は近年の小説で人気の設定だが、ヒーローがヒロインを溺愛するのではなく、妃が下働きをという変化球が面白い。「百華後宮鬼譚」シリーズの中でも陽湖はとびきり魅力的なキャラクターに仕上がっており、その鮮やかな姿はこの最新刊エピソードでも鮮烈な印象を残す。

 そして本巻では、本好き少女の恋の行方にも転機が訪れる。妃の下働きである甜花と皇帝・璃英との関係は、2人の間に立ちふさがる身分差や、幼い頃の記憶に残る初恋相手の少年の存在もあって、じれじれとした展開をみせていた。しかし、皇帝の暗殺未遂をきっかけに大きく動き出すことになる。未来に進むために璃英が下した決断と、2人の新たな出発を見届けてほしい。

文=嵯峨景子

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