令和版『めぞん一刻』!? 引っ越し先で出会ったのは、意地悪なのに気になる管理人さん…アパートが舞台のほっこりラブコメ

マンガ

公開日:2022/11/9

春の日ぐらし
春の日ぐらし』(朝ひおり/白泉社)

 唯一の肉親である祖母が入院したため、広島から京都へやってきた15歳の少女・司。道に迷っているところを、赤い髪&ピアス、目つきの鋭い男性から声をかけられる。不良にナンパされた! と警戒する司だが、その青年、春日凛は、新しく住むアパート「春日荘」の管理人だった……。

 読者投票によって選出された読み切り作品を連載化する“連載争奪!花とゆめドラフト杯”で、みごと連載を勝ち取った朝ひおり氏の『春の日ぐらし』(白泉社)。初めてのひとり暮らしに奮闘する上京少女と、アパートの大家青年が織り成す恋と日常を繊細に描いている。

見た目はヤンキー(実際かつてはグレていた)そのもので、司への当たりもきつい凛。

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「嫌なら出てってもろてもかまへんけど?」
「ホンマ子供(ガキ)」

 端整な風貌から発される容赦のない毒舌(京都ことばというのがまた迫力がある)に、当然ながら司は猛反発。入院中の祖母に心配をかけないためにも、一日も早く新生活に順応しようとする。しかし、無理がたたってアルバイト先でとうとう体調を崩してしまったとき、駆けつけてくれたのはなんと凜だった。

「アンタはまぁようやってんちゃうの」

 初めて彼から優しい言葉をかけられて、ひとり暮らしをはじめて以来、ずっと張りつめていた司の心が決壊する。凜の前で泣きながら弱音を吐きだして、なぜだか安心感を覚える。

 この人の前でなら泣ける。弱音を言うことができる。そういうことに気づいてから――恋がはじまる。

 導入部となるこの第一話が実に微笑ましい。司の凜への警戒心と反発、からの恋心の芽生えが流れるように展開されて、読む者の心を掴む。

 以降、司は自分でも明確に意識しないまま、彼に惹かれるようになってゆく。初めてのデートやアパート住人総出の草むしり大会などを通して、少しずつ凜のことを知るようになる。

 実は彼も司と同じく、おばあちゃん子だったこと。その祖母の死後、アパートの管理を引き継いだことなどを。そして、こう思うようになる。

 彼がわたしのことを何かと気にしてくれるのは、わたしに自分を重ねているからではないだろうか……と。

 誰かを恋するという未知の感情に戸惑いつつも、凛への想いをじょじょに自覚する司。そんな司に対し余裕たっぷりに振る舞いながら、時おり意味深な態度をみせる凜。縮まりそうでなかなか縮まらない2人の距離が、もどかしくもこそばゆい。1巻の続きとなる本誌最新号では季節は春から夏へ移り変わり、司と凜の関係も一歩前進しそうなのだが。

 凛のいとこで、司と同じ高校のクラスメイトとなった桃(隠れオタクの美少年)。それぞれに謎めいた他の部屋の住人たち。彼らを囲むキャラクターたちも個性豊かで、令和の時代の『めぞん一刻』(それも男女逆転)と呼びたいようなアパートラブコメディだ。

文=皆川ちか

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