心臓疾患児を含め3子を育てながら見つける心の欠片、背中を押される日常の出来事たち

出産・子育て

公開日:2022/11/12

まいにちが嵐のような、でも、どうにかなる日々。
まいにちが嵐のような、でも、どうにかなる日々。』(きなこ/KADOKAWA)

 育児をしている方、したことのある方ならわかるだろう。育児をしていて最もつらいのは、子どもの具合が悪いとき。そして、その不調が長引いたとき。

 では、6歳と9歳の子を育てながら、重度の先天心臓疾患児として生まれた3番目の子を迎えたきなこさんは、どんな風に日々を過ごしてきたのだろう。

 きなこさんは、子どもたちとの暮らしなどについてnoteやウェブで連載しており、幅広い世代に読者を持つ。

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 きっと、どの記事を読んでも想像が追いつかないような思いを乗り越えてきたに違いない。けれどそのきなこさんの初エッセイ集『まいにちが嵐のような、でも、どうにかなる日々。』(KADOKAWA)を読むと、「大変すぎる…!」と感じはするが、どこか軽快なのだ。

 もちろん、書かれなかったことがこの一文一文の後ろに膨大にあるのだと思う。それをもってしても、きなこさんの世の中を見る目、子どもを守る優しさ強さ、疑問を感じることに対しての本質を見極めようとする力が、軽快でユーモアのある表現が、読む人に明るい何かをもたらしてくれる。まったく、悲壮感が漂わない。けれど、胸にぐっと刺さる。ご自身の持つ軽妙な部分を失わない、芯の強さに脱帽する。

ご自身の持つひょうきんな部分を失わない、芯の強さに脱帽する

 印象的だったのは、フィギュアスケートの羽生結弦選手の話。

 病棟の共用スペースで、入院患者や見舞いの家族とともに観た平昌オリンピック。羽生結弦選手の滑走で全員が沸き立った、あの一瞬。3番目の子どもがNICUから小児科病棟に移る、自分と家族の負担がどうしたって大きく大きくなるその決断を、金メダリストが後押ししてくれた。

「きっかけというのは、いつもそういう些細なことだ」。

 誰だって、きっとそう。日常の些細なことを感じ取り、大事にすることの大切さに気づかされた。

 一方で、お話のなかのひとつ「制服を買いに」では、長男が出さなかったプリントによってドタバタさせられる1日について描かれている。「あるある」「うちの場合は」「私なんかこんな目に」と話しだしたくなるような育児中の一コマ。

 こうしてみると、「どうにかなる日々」は「どうにかする日々」でもあるなあ……。

「どうにかなる日々」は「どうにかする日々」でもあるなあ

 そして最後に「宇宙観覧車」のなかで語られているワンシーンについて紹介したい。

 心疾患を持つ3番目の子(次女ちゃん)念願かなっての、初めての遊園地。その驚きと喜びの様子に、読んでいるこちらまで嬉しくなってしまう。そしてとても印象的だったのが、仲間から外れてひとりぼっちで座っていた高校生と次女のちょっとした会話のシーン。

 きなこさんは彼女に心の中で話しかける。

「可能性とは、あなたのことだ」

 きなこさんが、いろいろな子どもたちを見てきたからこそ涌き出てくる、生きとし生けるすべての子どもたちと、昔子どもだった人たちへの大きな愛を感じて涙が込み上げた。

 子どもを育てている人はもちろん、昔子どもだった人のすべてに読んでもらいたい1冊である。

文=矢島 史

昔子どもだった人のすべてに読んでもらいたい1冊

【著者プロフィール】
きなこ
10代の長男・長女、幼稚園に通う心疾患児の次女を持つ3児の母。娘の闘病や子どもたちとの日々のあれこれ、自身の雑感や創作などをnoteやweb連載などで発表。独特の筆致で、子育てママだけでなく幅広い層に読まれている。
Twitter:@3h4m1

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