脳は何歳からでも成長する! 累計発行部数60万部突破『スマホ脳』著者が伝える、運動で脳を鍛える方法

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公開日:2022/11/11

運動脳
運動脳』(御舩由美子:訳/サンマーク出版)

 2020年刊行の『スマホ脳』(新潮社)で、スマホやSNSへの依存リスクを伝え日本中に衝撃を与えたスウェーデンの精神科医・アンデシュ・ハンセン氏。本国ではその『スマホ脳』より売れている彼の最大のベストセラーが、『運動脳』(御舩由美子:訳/サンマーク出版)だ。

 本書は運動が脳に与える好影響を、神経科学が立証している事実をもとに、医学の知識のない一般読者にもわかりやすく伝える1冊だ。1900年代初め頃は、成人の脳に新しい細胞は生まれないという見解が一般的だったという。しかし現在ではさまざまな研究によって、脳細胞は成人後も増えることがわかっている。そして著者によれば、25歳頃を境に人間の脳が縮むことは事実である一方で、習慣によって脳は成長させられるという。そんな脳細胞の増加や脳の成長に、本書のテーマである「運動」が大きく関わっている。

 たとえば、多くの現代人が抱えるストレスの問題や、うつ病などの精神疾患の治療にも、運動は効果的だという。運動習慣で、ストレスの原因となるコルチゾールというストレスホルモンの増減をコントロールできるようになり、ストレスへの抵抗力が高められる。また、意欲減退の防止や学習能力向上、細胞の老化を遅らせるなど、その働きを科学者が「奇跡」と呼ぶBDNFという脳内物質は、有酸素運動によって生成が促される。その結果、脳で新しい細胞が作られ、脳にとって多くのメリットが生まれるというのだ。ある調査によると、運動はうつ病患者にとって、抗うつ剤と同等どころか長期的に見るとそれ以上の効果があったというから驚きだ。

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 本書によれば、大人と子どもの集中力や記憶力のアップにも、運動は効果的なのだそう。運動によって、集中力が高まるときに重要なドーパミンの分泌量が増えるほか、論理的思考や自制心を担う前頭葉の力も運動によって強化できるという。また、記憶の中枢である海馬は加齢で1年あたり約1%小さくなり、これが記憶力の衰えに関連している。しかしアメリカの研究で、持久力系のトレーニングを1年続けたグループと、軽い運動を続けたグループの海馬の大きさを調べたところ、軽い運動のグループは海馬が1.4%縮んでいたのに対し、持久力系トレーニングのグループは、2%大きくなっていたそうだ。年齢を重ねてからでも、運動が脳の重要な部分を成長させることが研究で証明されているのだ。

 本書ではこのほかにも、運動が創造力や子どものIQ、将来の病、さらには性格など、その人の生きやすさを決める要素にいかに良い効果をもたらすのかを伝えている。それらは、アイデアが生まれたり、注意力が失われたりするときの脳内の仕組みの説明と、客観的な研究データに基づいているため説得力がある。また、具体的にどれぐらいの運動をしたらベストなのかという解説も丁寧だ。著者によれば数分のウォーキングでも効果があるため、これまで運動習慣がなかったという人でも安心だ。

 本書では、小説の執筆中に毎日ランニングや水泳をするという村上春樹氏の逸話など、大きなことを成し遂げた人々が、アイデアや心の健康のため体を動かしてきたことを伝える言葉も紹介している。歳を重ねて、物忘れが多くなったと嘆いたり、新しいことは覚えられないと諦めたりしている人は多いのではないだろうか。そんな人は本書内の、運動で脳が鍛えられた高齢者の例や、人生を終える直前まで脳が新しい細胞を生みだしていることを示す研究結果に勇気づけられるだろう。仕事が進まない、アイデアが浮かばない、学習がはかどらない……そんなときこそスニーカーを履いて外に出ようという、新しい発想を与えてくれる画期的な1冊だ。

文=川辺美希

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