静かに拡大する不安感と耽美な世界観が読む者を引き込むサイコサスペンスコミック

公開日:2012/12/10

ウツボラ 1巻

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 太田出版
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:中村明日美子 価格:540円

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本作は、大味なスリラーやホラーではなく、静かに拡大していく不安感やじわりじわりと這い寄ってくる不吉さを堪能したいマニアックな読者向けの、本格派サイコサスペンスコミックです。

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冒頭に不可解な投身自殺を遂げた美少女「藤乃朱」、双子の妹を名乗る瓜2つの「三木桜」、そして主人公である作家・溝呂木舜を中心に、謎が深まっていきます。物語が進むほどに闇は深くなり、緊張感を増していき…。

大作家である溝呂木は、あろうことか盗作に手を染めて発表した新作『ウツボラ』で再び世間の評価を得ますが、この背徳と、狡猾に付け入る桜に見え隠れする情念、そして作者である中村明日美子が得意とする生気のない耽美的なエロスが相まって、独特な世界観をかもし出しています。みごと。

本作で事件の発端となる溝呂木の盗作。才能の枯渇を恐れる大作家こそやってしまうのかもしれませんが、いけませんよね盗作は。

卒業論文のコピペや盗作の問題が毎年取り沙汰されますが、近年、情報技術を駆使したICT技術を用いた「ICT教育」が普及・拡大していることもあり、子どもへの著作権教育がさかんなのをご存知でしょうか。
ICT機器等の基本的な操作は、いわゆる「デジタル移民」である私たちより、生まれつきデジタルに慣れ親しんでいる「デジタルネイティブ」である子どもたちの方が容易に習得するのかもしれませんが、その分、著作権をはじめとした情報を活用するうえでのルールやマナーなどを知らずに育つ恐れがあります。そのため、大人によるしっかりとした著作権教育が不可欠なのです。

ちなみに、前述の論文盗作問題では、人的努力での発見は限界があるとして、すでにネット上のキーワードから文章の盗用を発見するプログラムが開発されており、日本でも活用されています。盗作はすぐにバレます。

盗作という過ちを犯した溝呂木が、やがてどのような結末を迎えるのか。2巻で完結です。


冒頭からショッキングな投身自殺のシーン

死んだ「藤乃朱」と瓜2つの「三木桜」と出会うことで拡大していく不安感。まるで日本人形のような線の細い美しさが光る

相撲を観戦していても感情をあまり表にしない色男の溝呂木

「藤乃朱」と「三木桜」の本当の関係は…?