ときめきを身につける幸せ…“推し”を持つ人々と着物の出会いを描く、楽しく学べるお着物マンガ!

マンガ

更新日:2022/11/24

推し着物
推し着物』(岡野く仔/竹書房)

 日本人に生まれたからには、着物をカッコ良く着こなしたい。それも、特別な日だけでなく、普段から着こなせるようになったらどんなに素晴らしいことか。でも、着物はなんとなくハードルが高い。着物は高額だろうし、着付けもお作法も難しそうだし……。そんな思い込みから、着物に憧れを感じつつも、手を出せずにいるという人は決して少なくはないだろう。

 そんな人に読んでほしいのが、『推し着物』(岡野く仔/竹書房)。『ロリータ飯』『着物ちゃんとロリータちゃん』で知られる岡野く仔さんによる最新作だ。このマンガは、私たち着物初心者の着物に対するイメージを変えてくれる。「なんだ、着物ってこんなに自由で手軽なものなんだ!」——着物に対する思い込みで身動きが取れなくなっていた私たちにそんなことに気づかせてくれる作品だ。

 主人公は会社員の大島かの子。小さい頃、着物姿を友人に否定されてから、誰にも何も言われない無難な服しか選ばなくなった彼女は、いつも電車で見かけるイケメン着物男子に憧れを抱いていた。ある日、ふとしたことからかの子はその“推し”の着物男子に声をかけられる。彼の名は久乃。呉服屋「お色」の店主である久乃と関わる中で、かの子は着物の魅力にどんどんハマっていく。

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推し着物

推し着物

 着物初心者のかの子を中心として描かれる物語では、着物の基本的な知識が随所で解説されていく。「普段着」としての着物と「フォーマルな場」での着物の違いなど、初心者が気になるポイントに触れられているのが嬉しい。それに、このマンガでは、かの子を中心としながらも、1話ごとにいろんな「推し」を着物で叶えるあらゆる人物が登場する。体型のせいで好きな着物を選べないふくよかな漫画家、憧れはあっても着物は「高いもの」と諦めている女子高校生、女性物のカワイイ着物が着たい男子高校生、正しい着方にこだわりすぎるバリキャリ、自由な着こなしを貫く服飾専門学生……。着物は決して高くはないし、体型や性別を理由に諦める必要はない。正しさばかりを追い求める必要もない。彼らと着物との出会いは、私たちの着物に対する思い込みを消し去ってくれる。

 特に印象に残ったのは、着物で推しキャラコーデを楽しむ女の子・ボタンだ。ハマっているアニメの推しのカラーの着物を着て、帯留めがわりに缶バッチを活用する彼女のコーディネートは斬新そのもの。見たことのない着こなしに、着物姿を否定された経験のあるかの子は思わず「周りは気になりません?」と質問するが、ボタンは、「全然?」「『好きな物』を身につけるって最高でしょ」と明るく答えてみせる。

推し着物

推し着物

推し着物

 確かに着物にはいくつかの作法はある。だが、着物にだって、色んな種類や色んな着方があっていいのだ。「柄」「色」「小物」「意味」も無限大で楽しめるのが、着物の魅力。このマンガは、その楽しみかたを教えてくれるだけでなく、自分の好きな物を身につけることの喜びをも教えてくれる。

「ときめき」を身に着けた登場人物たちの姿を見ていると、見ているこちらまでワクワクしてくる。憧れているだけではもったいない。自分の気に入った着物を、実際に着てみたいと思わされる。あなたもこのマンガを読んだら、すぐにでも着物に挑戦してみたくなるはず。着物に少しでも憧れがあるのなら、この作品でその一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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