不登校と言うか、ホームスクーラーと言うか――「言い換え」をして、行動を変える技術

暮らし

公開日:2022/12/2

衣食住を見直せばうまくいく 子どもの「好き」から始まる心地よい暮らし
衣食住を見直せばうまくいく 子どもの「好き」から始まる心地よい暮らし』(美濃羽まゆみ/大和書房)

 子どもが「片付けをしない」「ご飯を食べない」「学校に行きたがらない」など、いわば「否定形の悩み」というのが世の中にはあります。これらは子育て中であるかないかに関わらず、「部下が指示を聞いてくれない」「上司に思いが伝わらない」など、ビジネスシーンでもあり得る話かと思います。また、子どもの頃を思い返せば「なんで○○しないの!?」と、否定形の叱られ方を親か先生かにされたことがある方がほとんどではないかと思います。

 本書は、洋裁作家で2017年からは手作り暮らし研究家としての活動も始めた二児の母の著者・美濃羽まゆみ氏が、「否定形の悩み」を如何にして肯定形として捉えることができるかを、実体験に則して教えてくれる一冊です。

 料理・収納・服のチョイス・洗濯などに関する「コツ」も多く紹介されている本書ですが、サイドストーリーのような形で紹介されているのが、著者の子どもたちがホームスクーラーであるという点です。ホームスクーラーとは、基本的には学校に通わずに、家庭で学習するスタイルのことです。

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 著者の家庭では、9歳の長男が2年半ほど、ADHDの傾向がある15歳の長女が本書執筆の前年から、学校に行かない選択をしました。通わ「ない」や「不」登校という言い回しもまた否定形の表現となりますが、通わない選択を「した」と言い換えるならば肯定形になります。

 ホームスクーラーという言葉自体も、「学校に通っていない」ということより「学校に通わないことを選択した」というほうに重心が置かれた言い回しです。そのことを理解すると、著者の子どもたちが「なぜ学校に行きたくないのか?」ということについて明確な回答を持ち合わせていなくても、不思議ではなくなります。著者は「学校に行きたくない理由」のわからなさは留保しておいて、ゲームやYouTubeなども含めて、子どもたちの「好き」を優先する選択をしました。そして、長男がゲームやYouTubeアップをしつつ学校の友だちとは完全に断絶されているわけではない日々を長らく過ごしたある日、こんな瞬間が訪れたそうです。

そんな息子が「そろそろ勉強でもしてみよっかな。ヒマやし」と言い出したのは学校に行かなくなって2年近く経った、つい最近のこと。勉強のことなど半ば忘れかけていたわたしは内心びっくりでしたが、「喜んだ様子を見せてプレッシャーになってもアカンな」と思い、「へえ、そう? じゃあ一緒にやってみよか」とできるだけ平静を装いつつちゃぶ台に横並びになり、じつは前から準備していた学び直しのためのテキストを開くことに。

 少々長めに、書中では必ずしも本題ではないホームスクーリングのことをご紹介しましたが、この引用箇所の終わりのほうに「じつは前から準備していた」という一節があります。これが本書の肝であると筆者は思いました。

 一般的には否定形で使われている言葉を肯定形で言い換えて、意志や行動の連鎖によって、否定形の状態が解きほぐされていくのを待つ。すると、「運良く準備ができていた」状態になる。このような「見えないけれども確かな力学」に対する信心が、本書中に遍在しています。たとえば、かなり冒頭の方に紹介されている「子どもが片付けをしない」という悩みを解決する基本姿勢を、著者はこのように提唱しています。

そもそもの、片付けのメリットは何なのか。わたしが思うにそれはたぶん「やりたいと思ったことがすぐにできる環境にしておくこと」です。
だとしたら、わたしたち大人が子どもたちにやってほしいのは「片付け」そのものじゃない。まずは子どもが「今この瞬間」を存分に楽しむことなのでは、と思うのです。

「片付けなさい」ではなく、「明日遊ぶときにどこに何があるかすぐ分かるようにしておいたほうが楽しんじゃない?」とでも言うことによって、文字通りスッキリ片付いていることにはならないかもしれないけれども、「準備ができている」状態にはなって親子にとってウィン・ウィンになる。子どもにとっては難しすぎる考え方かと思いきや、「好き」「楽しい」ベースの言い回しなので、多くの子どもたちが意外とスッと理解するのでしょう。

 既にある「好き」を活かすテクニックもさることながら、無から有を生み出すように「好き」を創るコツがたっぷり含まれている本書は、子育てだけでなくビジネスやチームビルディングにおいて、どうやってモチベーションを発揮するかという文脈でも読めるような示唆に満ちています。

文=神保慶政

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