なぜこんなに夢中になるの? “怪盗”少女漫画の魅力を人気3作品からひもとく!

マンガ

更新日:2022/12/6

怪盗セイント・テール』(立川恵/講談社)

 敵を欺き、鮮やかな手口で犯行に及ぶ“怪盗”たち。フィクション作品に、しばしば登場する彼らは、決して正義ではないけれど魅力的な描かれ方をするのが特徴です。

『ルパン三世』に『キャッツ・アイ』といった大御所たちが、とんでもない美術品や財宝を狙う一方で、学園を舞台に恋に仕事に大忙しのキュートな怪盗もいます。乙女たちの心を掴んで離さない、少女漫画の怪盗の魅力に迫ります。

夜になれば私は無敵!『神風怪盗ジャンヌ』(種村有菜/集英社)

 1998年冬。全国のリボンッコに衝撃が走りました。「神風怪盗ジャンヌ」(種村有菜)の登場です。アニメ化もされた本作は、現在も根強いファンがいる人気漫画。

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(あらすじ)

 日下部まろんは一見普通の高校生。しかしその正体は、世間を騒がす怪盗ジャンヌ。ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりであるまろんは、準天使フィン・フィッシュの導きにより、絵画に憑依した悪魔を夜な夜な回収していたが、ある日ジャンヌを邪魔する怪盗シンドバッドが現れて…!?

 ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりという設定、ライバルのイケメン怪盗、巫女さん風の可愛いコスチューム、ロザリオ……心ときめくエッセンスが盛りだくさんの本作に、読者は魅了されました。

 さて、そんなジャンヌが盗むものといえば絵画。といっても物理的に盗むことはありません。ジャンヌが絵画に「チェックメイト」して悪魔が消えると、絵は真っ白になってしまうので、それを“盗まれた”と表現しています。絵画は天使の絵に変わることもあり、持ち主によっては前の絵より気に入っている描写もあります。

 ただ、ジャンヌの場合、警察に捕まるとか、怪盗シンドバッドに邪魔立てされるとか、怪盗ならではのハラハラはもはやおまけです。

 この作品の魅力はなんといっても、主人公であるまろんの繊細な心理描写。いつでも明るく、人気者のまろんですが、実際はとても自己評価が低い女の子。

「本当の自分は孤独で無力だけど、ジャンヌになったときだけ強くいられる」と信じ、ありのままの自分に自信を持つことができません。

 まろんの不安定な心を紡いだポエムに、小学生女子はみんな感情移入したのです。種村先生独特の華やかな絵柄も相まって、一躍、りぼんの看板漫画となったのでした。そういえば筆者も怪盗にこそなりませんでしたが、まろんに憧れて新体操を始めようとしたことをさっき思い出しました。

正体に気づいてほしいもどかしさ!『怪盗セイント・テール』(立川恵/講談社)

怪盗セイント・テール』(立川恵/講談社)

『神風怪盗ジャンヌ』が連載される約3年前、『なかよし』でも、怪盗漫画が連載されていました。それが『怪盗セイント・テール』です。こちらもアニメ化され、松田聖子さんが主題歌を歌っていたのが印象に残っています。

(あらすじ)

 聖(セント)ポーリア学院に通う羽丘芽美は、マジシャンを父に持つ普通の中学2年生。そして聖華市を騒がす怪盗セイント・テールの正体でもある。見習いシスターである親友・深森聖良のもとにやってきた「迷える子羊」たちを救済するため、怪盗活動に精を出す。そんな彼女を追うのは、同級生の飛鳥大貴(通称:飛鳥Jr.)。二人の追いかけっこ、最後に勝つのはどっち?

 セイント・テールはずば抜けた身体能力と、もはや魔法では? というくらいマジカルな手品を使って、あらゆるものを盗み出します。宝石や秘宝など、わりと金目のものを盗みがちですが目的は元の持ち主に返すこと。怪盗は怪盗でも、義賊です。

 ジャンヌとシンドバッドが同業者でライバル関係であったのに対し、こちらは怪盗と刑事(の卵)という王道設定。セイント・テールが捕まるかどうかが、最大の見どころ。

 もちろんそこに恋愛も絡んできます。懸命にセイント・テールを追いかける飛鳥Jr.のことが、だんだんと気になる芽美。でも正体がバレたら嫌われてしまうかも……。

「(正体に)気づいてほしい、でも気づかれたくない」という、複雑な恋心と重ね合わせた心理描写にキュン!!!

 飛鳥Jr.が芽美に告白するシーンと、クライマックスで飛鳥Jr.がセイント・テールを捕まえようとするシーン。この2つに関しては、あまりにも感動的すぎて、『なかよし』本誌で読んでから20年以上経った今も鮮明に覚えています。ぜひ読んで、あなたも感動してください。

3万円で盗みを請け負う美人女子高生!『P×P』(吉住渉/集英社)

 上記2作品と同様、学園と怪盗を組み合わせた作品には、『P×P』(ピーバイピー)もあります。こちらは、『ママレード・ボーイ』『ミントな僕ら』の吉住渉先生の作品。

(あらすじ)

 校内を騒がす神出鬼没の怪盗「P」。手数料3万円で価値のない物なら何でも盗んでくれる謎の人物だが、その正体は、生徒会副会長の姫乃るり。IQ250の天才少年・須佐祐真を相棒に、今日も生徒たちからの依頼を引き受ける。

 主人公のるり、通称“姫”は、元体操部のホープ。そのうえ容姿端麗なので、学園内でも有名人。そんな才色兼備の姫が、なぜ怪盗をしているのかというと、なんとお金目当て。普通にバイトするよりも怪盗のほうが刺激が得られると堂々と言い放ちます。バレたら即刻退学になりそうなものですが、なかなかのやんちゃガールです。

 姫は手品や魔法が使えるわけではありません。頼れるのは己の身体能力と、相棒である祐真の発明品です。割ったガラスを元通りにする「ガラス再生スプレー」や、地上から2階へひとっ飛びできる「簡易トランポリン付シューズ」など、阿笠博士ばりのお助けアイテムで、姫の仕事をアシストします。

 依頼されるのは、保健室にあるテディベアやチケットの半券など、一見なんでもないものばかり。それらが別の謎に繋がっていて……という、ミステリー要素もあります。

 でも何より一番の見どころは、やはり姫と祐真のラブでしょう。ガツガツ祐真にアピールする姫が可愛いのです。

「ちょっとずつ気になって……」という少女漫画の恋愛セオリーをすっ飛ばして、お互い好意があるところから始まるテンポの良さに引き込まれます。

 小学生のときにこの漫画を読んでいたらと思うと、危なかったです。影響されて、とんでもない黒歴史を刻んでいた可能性があります。全1巻なので、さくっと読むのにおすすめの作品。

 やっぱり怪盗って素敵ですよね。彼女たちを上回る怪盗キャラは今後現れるのでしょうか? 期待したいです。

文=中村未来

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