昔のび太だったあなたへ…ジ~ンとくる感動エピソードの傑作選『とっておきドラえもん むねいっぱい感動編』

マンガ

公開日:2022/12/9

とっておきドラえもん むねいっぱい感動編
とっておきドラえもん むねいっぱい感動編』(藤子・F・不二雄/小学館)

 子どものころから慣れ親しんできた「ドラえもん」を語りたい! 私がそう思ったのは、書店で『とっておきドラえもん むねいっぱい感動編』(藤子・F・不二雄/小学館)を見つけてしまったからだ。

 マンガ『ドラえもん』とは(今さら書くまでもないが)、未来からやって来たネコ型ロボット・ドラえもんと、勉強も運動も不得意な小学生・野比のび太が繰り広げる、笑いあり涙ありの日常を描いた作品である。私が子どものころの心を、そして現代の少年少女たちの心をもつかんで離さない、時代を超えた名作だ。いわずと知れた国民的キャラクターであり、作品なのだ。

 そんな『ドラえもん』の入門編でありベスト盤として厳選エピソードをまとめた傑作選が、この『とっておきドラえもん』シリーズだ。ドラえもんを読んで、観て育った世代ならタイトルを読んだだけでグッとくる、懐かしい名エピソードが満載である。本稿ではシリーズ1巻にあたる『むねいっぱい感動編』を紹介する。

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厳選された、心に響く珠玉のエピソード

 本作に収録されている“むねがいっぱいになる”エピソードは以下の通り。

・ぼくの生まれた日
・台風のフー子
・おばあちゃんのおもいで
・ぼくをタスケロン
・しずちゃんさようなら
・森は生きている
・雪山のロマンス
・のび太の結婚前夜
・ジ~ンと感動する話
・さようなら、ドラえもん
・帰ってきたドラえもん
・ぞうとおじさん
・思いだせ! あの日の感動
・チョーダイハンド
・ドラえもんが重病に?
・45年後……

 ドラえもん好きならば内容が思い出されるタイトルばかりではないだろうか。もちろん私も、最後に読んでから数十年経っているにもかかわらずほとんど覚えていた。子ども心にも印象的な話ばかりだったのだなあと気付かされた。いくつかのエピソードを紹介する。

 まずは「台風のフー子」。未来世界で生み出された台風の子どもを卵からかえして育てるのび太。ただ台風は想像通り大きく、強力になっていき家の中で育てられなくなっていく。パパとママ、ドラえもんにも捨ててこいといわれ……。のび太はさまざまな動物や人間以外の何かと仲良くなる。だが多くの場合、彼らとの別れを経験する。このタイプのエピソードはとにかく感情移入させられ、本当に悲しかった記憶がある。今読み返してもやはり目頭が熱くなった。

「おばあちゃんのおもいで」は自分も祖母が大好きなので、非常に思い出深いエピソードだ。のび太は亡くなったおばあちゃんにどうしても会いたくてタイムマシンに乗り込む。そんな彼を見て、おばあちゃんは孫が大きくなった姿だと信じてくれる。いってしまえばこれだけの話。だがラスト2ページを何度読んでも涙腺が崩壊してしまう。

「45年後……」は未来ののび太がやってくる話。のび太が未来の自分と対面し(あるいは観察し)努力しようと決意する話はいくつかあるが、この回の彼は「りっぱな社会人になるためにがんばる」とすでに決めており、宿題を手伝ってもらうことすらしない。ラスト、45年後ののび太から小学生ののび太へのエールが非常に良いのだ。説得力があり心にじいんと響いた。本作「感動編」をしめくくるのにふさわしいエピソードだ。

子どもから大人まで、誰もが感動する理由

 本書を読んで感じたのは、軽めのギャグエピソードにも、「さよならドラえもん」のような“これぞ感動回”にも、およそ共通したテーマがあるということだ。まずは“愛情”、そして“のび太の成長しようとする意志”だ。

 のび太は一足飛びに成長はしない(「ドラえもん」は一話完結なので当然といえば当然だが)。ただ成長しようとがんばるのだ。彼は何もできないグータラな少年として描かれているが、「伸びよう、成長しよう」と自分で考える描写も多い。

 ただ残念ながらうまくいかないことのほうが多い。それは息子をもった今の私には理解できる。ほとんどの子どもはさまざまなことにつまずき、時間をかけて立ち上がるのだ。自分の意志で。

 のび太は今の子どもにも、子どもだった私たち大人にも恐ろしいほどリアルなキャラクターなのである。だからこそ彼に共感でき、だからこそ作品に感動できるのだ。

 この『とっておきドラえもん むねいっぱい感動編』をめくり、目次を目にしただけで泣きそうになってしまった。そして内容と感動を思い出し、読み返すといくつかのエピソードで涙した。昔子どもだったあなたも、きっと同じ体験をするに違いない。

文=古林恭

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