恋か?仕事か? 転生聖女と悪名高き王による、手に汗握る命と恋のシーソーゲーム!

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/15

転生聖女のサバイバル 水属性の亜人陛下に目ざとく命を狙われています
転生聖女のサバイバル 水属性の亜人陛下に目ざとく命を狙われています』(猪谷かなめ:著、山下ナナオ:イラスト/ KADOKAWA)

 自分は真面目に仕事しているのに、なんであの人はいつも嫌味を言ってきたり、意地悪したりするんだろう……。どんな職場であっても人間関係やパワハラに悩む人は少なくないはずだ。一緒に働いていても理解し合えない人はいるものだ。しかし、ちょっとした言葉の違いで相手を誤解していることはないだろうか。

転生聖女のサバイバル 水属性の亜人陛下に目ざとく命を狙われています』(猪谷かなめ:著、山下ナナオ:イラスト/ KADOKAWA)は異世界で聖女に転生した主人公が、悪名高い簒奪王からのパワハラにあいながら国のために働く物語だ。なんてひどい王様だ!と思った諸君、待ってほしい。実はこの話は、恋をこじらせた不憫な王様と、それに気づかない鈍感な聖女との悶絶ラブストーリーなのである。

 サザナ封鎖国に生まれた主人公のフェニシアは前世の記憶をもった転生者だ。土地や生物を変異させる瘴気を浄化する聖女としての役割を果たすのが彼女の仕事。その権威は国王にも並び、お互いによき相談相手となりながら国を運営していくはずだった。しかしある日、その王位が簒奪されてしまう。新たな王・グラシカは若く美しい水棲族の亜人で、フェニシアに聖女からの引退をも迫るパワハラ国王だった。

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 顔を合わせるたびに「引退すれば今より幸せになれますよ」と言葉巧みに引退をほのめかすグラシカと、「何度言われても辞めません!」と真っ向から立ち向かうフェニシアの掛け合いが賑やかで楽しい。

 瘴気が生じやすいサザナ封鎖国にあって、浄化の力を持つ聖女は人々の命を支える生命線といっても過言ではない。さらに聖女の力を保つためには純潔を守らねばならず、恋も結婚もせずに生涯を独身で終える覚悟もしなければならない。

 不自由で報われない職業だけれども、フェニシアは聖女としての仕事に充実感を覚えていた。前世では病弱で、誰かのために働く職業に憧れていたフェニシアにとって、聖女という生き方は不自由であるが、決して不幸ではなかったのだ。グラシカのパワハラに耐えながら、たくましく、したたかに聖女の仕事をバリバリこなすフェニシアの働きぶりが凛々しい。

 ことあるごとに衝突しながらも距離を縮めていくうち、フェニシアはグラシカの行動に疑問を覚えていく。グラシカの政策は真に国民の将来を考えたもので、普段のパワハラ発言に反してフェニシアの危機には身体を張って守ろうとしてくれていた。周囲はグラシカを冷酷な独裁者だと非難するが、フェニシアは彼が垣間見せる優しさに惹かれていく。

 次第にグラシカの悲しい過去、幼きフェニシアとの思い出が明らかになるにつれ、彼のブラックな印象が、「初恋」という彩りをもって色鮮やかに反転していくのだ。

 ようやく本音をぶつけ合い、これから一緒に力を合わせて国の将来を築いていこうと誓った矢先、隣国の帝国から「聖女を皇帝の花嫁に差し出せ」と横槍を受け、ふたりの関係は大きく揺れ動いていく……。

 聖女であることを望む限り、誰とも結ばれない運命にあるフェニシア。果たして彼女が聖女を辞める日はくるのか? お互いに不幸な境遇と、それに負けずに国を救おうとするふたりの姿に胸キュンせずにはいられない。もしも興味がわいたという方は、ぜひともふたりの決意の行方を見守ってほしい。

文=愛咲優詩

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