「教室を飛び出してしまう」発達障害のある子に学校でできることは? ありがちな困りごとへの親と教師の具体的な対処法

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公開日:2022/12/19

学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち
学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(本田秀夫/SBクリエイティブ)

 発達障害のある子には「多数派」「平均値」「友達」に合わせる必要はないというアドバイスがなされることも多い。だが、集団行動が多く、さまざまなルールが設けられている学校という場では、なかなかそうはいかないのが現実。

 親は我が子の特性への理解を得られずに悩み、教師側はどんなサポートが適切なのか頭を抱えてしまうこともある。

 そうした学校の在り方に一石を投じつつ、発達障害を持つ子どもの学校生活の支援法を解説するのが、『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(本田秀夫/SBクリエイティブ)。

 著者は、臨床経験30年以上の発達障害の専門家である本田秀夫氏。本書では基礎知識を交えながら、発達障害のある子を持つ親が抱えやすい具体的な困りごとへの対処法を紹介している。

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教室を飛び出す子どもにできるサポートは?

 学校での困りごとを解決するには、親と教師の連携が欠かせない。そこで、本書では困りごとが起きた時に「親ができること」と「先生ができること」をそれぞれ紹介。互いの立場や気持ちを理解しながら、子どもへのサポート法が見いだせる。

 例えば、発達障害のある子が何度も教室を飛び出してしまう場合、教師はまず教室を飛び出す理由を考える必要がある。そして、子どもが立ち歩いてから対処するのではなく、立ち歩きを予防する「工夫」をすることが重要なのだそう。こうすることで、子どもは最初から自分に合ったやり方で学習でき、「自分はダメだ」と感じる無益な失敗体験をしないで済むと著者は説く。

子どもが失敗してから「対策」を取るというのは、やむを得ない手段です。対策ももちろん必要ではありますが、それ以前に、子どもが何度も失敗を繰り返すことなく、その子らしい育ち方をしていけるように、配慮してほしいと思います。

 そのために役立つのが、「ユニバーサルデザイン」「合理的配慮」「特別な場での個別の教育」という3層構造の支援。

学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち P91

 まずは、指導が口頭のみなど画一的なものになってはいないかチェック。黒板に指示を書いて示したり、手本を見せたりするなど、子どもたち全員が分かりやすい「ユニバーサルデザイン」による指導を意識し、学習環境を整えていく。

 それでも、教室から飛び出してしまう場合は、セカンドステージである「合理的配慮」を。読むのが苦手というストレスから教室を飛び出してしまう子にはパソコンや音声読み上げソフトで情報を理解しやすくするなど、個別の配慮を行っていく。

 合理的配慮をしても学習に繋がりにくい場合は、子どもに合った学習環境を提供すべく、保護者と共に通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校などといったサードステージでの教育を検討していくとよいようだ。

 一方、親側は教師から、どんな場面で我が子が教室を飛び出してしまうのかを聞き、状況を把握。こうすることで、子どもが何にストレスを感じているのかが見え、対策が取りやすくなることもあるという。

 教室を飛び出すことが習慣になっている場合は、それを当たり前のことにせず、学校と相談して対策を考えていくことが大切。本書には困りごとを学校に打ち明ける時の伝え方のコツも詳しく掲載されているので参考にしてほしい。

 なお、著者はサードステージの「特別な場での個別の教育」を他の2ステージから切り離さないようにと訴える。本人に最も合っている環境を居場所としながら、3つのステージを行き来できるよう、ステージ間に連続性を持たせることが重要だという。

 著者が提唱する3層構造の支援が当たり前になれば、当事者は自己嫌悪に押しつぶされにくくなり、親や教師は子どもが置かれているステージが知れ、必要なサポートが見えやすくなるはずだ。

 他にも本書では、学校からの配布物を持ち帰ることができない、勉強するのが嫌で我が子がイライラしてしまう、学校に行きたくないと言われたなど、さまざまな困りごとへの対処法を紹介。

 個人的には、本当の学びとは何かを考えるきっかけをくれた、「宿題をやり切れない子への対処法」が目からウロコだったので、ぜひチェックしてほしい。

 発達障害の特性は、必ずしも困りごとになるとは限らない。環境や人間関係を調整すれば、発達障害があっても学校で伸び伸びと学ぶことができるかもしれない。学校を多種多様な人が過ごしやすい「小さな共生社会」にする方法を、本書を手に見いだしてほしい。

文=古川諭香

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