「うちの子は絵本に興味がない」は勘違いかも。不安な子育てを幸せに変える、絵本の「待ちよみ」効果とは?

出産・子育て

公開日:2022/12/23

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ
まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ』(内田早苗:著、山田花菜:イラスト/岩崎書店)

 子どもの反応や言葉を待ちながら、親は何も言わずにただ本文を読む、という絵本の読み聞かせ方=「待ちよみ」。この言葉を作ったのは、神奈川県の平塚市で「はたけのほんや」を経営し、絵本講師として「マツコの知らない世界」にも出演経験がある内田早苗さん。10年前、あるひとりのお母さんと出会ったことが、この言葉を作るきっかけになったとか。

 その日、絵本講師として内田さんが開催した「絵本を楽しむ会」には10組ほどのお母さんが集まっていましたが、そのお母さんは「私は、ほかのお母さんみたいに子どもを楽しませることができない」と子育てに自信がない様子。ところが、子どもが自分で選んで持ってきた絵本を、ふだん話すときと同じようにおだやかな声で読んでいる。それも、お母さんのほうから説明や質問をするわけではなく、時には子どもとクスクスと笑いあいながら…。

 その様子を見た内田さんは、「子どもを大切に思う親の姿がここにある」と確信したとか。親が子どもを待つことができれば、子どもは、自分の望みが叶えられる満足感と、愛されている安心感を得ることができる。そして、このお母さんのように子育てに自信がない人に「もう十分に幸せな子育てができていますよ」と伝えたくて、「待ちよみ」という言葉を作ったといいます。

 子どもがよりよく生き、成長する力を尊重するのが「待ちよみ」。その方法や効果が、内田さんの著書『まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ』(山田花菜:イラスト/岩崎書店)で語られています。

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まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.32

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.33

 子どもを持つと、いたるところで触れることになる絵本ですが、多くの人にとって「読み聞かせ」は初めての経験。どんなふうに読めばいいのか迷ってしまうことも少なくありません。

 内田さんがすすめる「待ちよみ」とは、「本文をただ読むだけ」「子どもが話しかけてきたら答える」「指さしや説明は不要」というもので、ひとつも難しいことがありません。絵本には赤ちゃんや子どもに聞かせる力があり、子どもはそこから親の想像以上にいろんなことを感じ取るので、親が率先して口をはさむ必要はないのです。ただ読むだけでいい、という気楽さ。指さしや説明をがんばっていた人は、「こんなにラクに読めて子どもが喜ぶのなら…」とうれしくなってしまうのではないでしょうか。

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.118

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.119

「絵本を読むと頭がよくなる」「冊数は多ければ多いほどいい」「絵本と体験を結びつけると尚よい」などの考え方も、特に必要ないと語ります。絵本を読むことは、知識や教養ではなく、子どもに愛情を示し続けること。まずは1冊を繰り返し読むだけでもよく、見返りを求める必要もない。

 ただ、頭のよさが「生きる力」だとしたら、赤ちゃん期から絵本を通してたっぷりのスキンシップと言葉を注ぐことで、それが赤ちゃんの「生きる力」の基礎となるといいます。

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.82

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.83

 ママ友たちの間では、「うちの子は絵本に興味を示さない」「一度読み聞かせをしたけど反応がうすかったので向いていなそう」という話もよく聞きますが、内田さんは「絵本が好きではない子どもには、今のところ出会ったことがない」と心強い言葉を投げかけます。「親が自分に絵本を読んでくれることがうれしくない子っていないのです。子どもの望みのために読む、それだけ」と語る内田さん。

 親がどのように読もうと、子どもは無条件で喜んでくれるので、読み聞かせがヘタだから…と引け目を感じている人や、お母さんに比べるとうまく読めないから…というお父さんも、自信を失う必要はまったくないそうです。

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.54

まちよみ・またよみ 絵本を使った子育てのすすめ p.55

「待ちよみ」と並んで本書に登場する「またよみ」とは、マタニティ期(妊娠期)から「待ちよみ」を知って、赤ちゃんを迎えること。つまり、おなかに赤ちゃんがいるうちから、子どもの生きる力を信じ、親は愛情を注ぐことを第一に考え、誕生を待つ、ということです。赤ちゃん絵本はストーリーがなく、大人が読むと意味が感じられないものが多いのですが、その中には赤ちゃんの心を惹きつける「おと」「もの」「あそび」「せいかつ」「くりかえし」という5つの要素が入っているそう。

 5つの要素にあわせたおすすめ絵本も紹介されているので、絵本選びに迷う人、バリエーションに富んだ絵本を選びたい人にも役立つはずです。

「どうしてあのときの私の子育ては不幸だったのか?」

「待ちよみ」は、絵本の読み聞かせ方を知るだけでなく、「子どもをよく見る」ことで、自分の子育てに自信を持ち、子どもに愛情を注ぎ続けることができるといいます。筆者が特に気になったのは、待ちよみを知ってから子育てがうまくいくようになったという親からのメッセージでした。

 その人は、幼稚園で子どもの落ち着きがないのは愛情不足だからだと言われ、情緒が安定した頭のよい子に育てるために絵本を読ませていました。ところが「待ちよみ」に出会い、ただ自分と子どもの幸せのためだけに絵本を読むようになると、周りの評価を気にせず、子育てで無駄にイライラすることがなくなったとか。今では、「どうしてあのときの私の子育ては不幸だったのか…」と過去を振り返るようになったといいます。

 子育てで大切なのは、周りの声に振り回されることではなく、自分の子どもをよく見て信じること。これこそが「待ちよみ」が与えてくれる気づきなのだと伝わってきました。

 内田さんが繰り返し伝える「絵本の読み聞かせは、親子の幸せのためにある」という言葉が身に沁み、筆者も試してみると、子どもとの間に流れる幸せでおだやかな時間が心地よく、子どもへの愛おしさが増していく感覚がありました。赤ちゃん絵本なら1冊3分あれば読めるそうなので、読み聞かせを通じて「子どもを待つ」感覚を掴んでいけるのはいいなと感じます。

 親子として歩む長い人生の中で、読み聞かせを楽しめるのは、わずかな時間だけ。頭ではわかっていながら、「子どものかわいがり方がわからない」「いい親になれる自信がない」という人は、本書を読み、まずは1冊の絵本を手に取ることで、幸せな子育てへの道筋が見えてくるかもしれません。

文=吉田あき

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