自分を信号機と考えて歩行者をイメージ! 人を動かすために何と言えばいいかを整理する「赤・青・黄」の原則

暮らし

公開日:2022/12/30

ほしいを引き出す 言葉の信号機の法則
ほしいを引き出す 言葉の信号機の法則術』(堤藤成/ぱる出版)

「言い得て妙」という言葉があります。「その通り!」「上手いこと言うもんだな」というシチュエーションのときを表す言葉です。「言い得て妙だね」と、たまたま言ったことに対して評価してもらえるのも嬉しいですが、もし計算して言えるようになったら、バシッとキレキレの一手を繰り出す将棋棋士のような気分を味わえるかもしれません。

ほしいを引き出す 言葉の信号機の法則術』(堤藤成/ぱる出版)の著者・堤藤成氏は「言葉の名人」です。電通で様々な部署を経験した後、マレーシアでMBAを取得。現在はオランダと日本の2拠点でクリエイティブ・ディレクターを生業にしています。

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「何を(What)」「どう(How)」言うかというコピーライティングの基礎を、独自の考え方で表現しようと模索する中で「言葉で人を動かすための原理原則は信号機から学べるのではないか」と、あるとき堤氏はひらめいたといいます。信号といえばもちろん「赤・青・黄」の3色から成っているわけですが、それぞれは以下のようなコツに転化して考えられています。

とどめる赤:不安・不満・不意などで心をつかむ言葉
すすめる青:相手の未来を肯定し、購買を薦める言葉
きになる黄:求める具体的な行動で後押しをする言葉

 まず、「赤」は人の足を止めることで、顧客ニーズと強く関連しています。キーとなるのは「不」がつく単語です。たとえば、「20年後の健康を考えて普段使いのオリーブオイルを変えよう」と言いたい場合、消費者がどのような健康上の「不安」を抱えているかに関する綿密なリサーチや観察が必要になります。本書では、「不不不のフィールドワーク」と呼ばれる観察方法や、思うがままに「不」を具体化していく「徒然草ライティング」という手法など、自分の考えや言葉に「不」の観点を織り込んでいくプロセスが紹介されています。

「青」は「買ったらいいことが起こるかも」というライトな勧めから、「もうこれは買うしかない!」と背中を押すような強烈プッシュまで色々なケースがあり、大事なのは言葉を届ける相手の未来を「うるおす」ことで、「儲かろう」というマインドが言葉の前面に出てはマズいということです。その塩梅を調整する術が解説されています。

 そして(意外にも)最重要かつ難易度が高いのが「黄」で、言い換えるならば「気になる(からダッシュだ!)」「今しかない」と思ってもらうということです。「小粋の法則」と銘打った「コレダケ」「イマダケ」「キミダケ」の3点を意識することが大切と説きつつも、ここでもやはり「うるおす」という大前提を意識する必要があると強調されています。特に、3番目の「キミ」という誰なのか(いわゆるペルソナ)が大事になるのですが、ただ「誰に言葉を届けるか考えよう」と言われるよりも、本書の核となっている「信号待ち」というシチュエーションのもとで考えたほうが圧倒的にイメージしやすいと筆者は感じました。

つまり、あなたが向き合うべきなのは、ひんぱんに車が行き交う横断歩道の前で、緊張して立っている、たった1人の目の前の相手だけです。そのひとりにフォーカスし、あなたは最適なタイミングで、自信を持って「青」のサインを出し、その人がたどり着きたい場所に着くお手伝いをしてあげるだけでいいのです。それが「人を動かす」ということです。

 現代社会は広告で溢れかえっていて「また広告か」「こういう広告なら前にも見たよ」とうんざりしている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、著者が「ひょんなきっかけで人生は動き出す」と信じて粛々と言葉を紡いでいる姿勢を知ると、野暮ったく感じるような広告も、見え方が変わってくることでしょう。

映画や小説、漫画の中にも素敵な言葉がたくさんあふれています。しかしこれらのメディアの言葉は、もともとコンテンツに興味があり、積極的に情報を取りに行く人にしか触れることができないものでもあります。受け身で自分の殻に閉じこもった人には届かないのです。だからこそ、昔の自分のような、受け身でうちにこもって世界に絶望していた少年に対しては、広告の「おせっかいな」言葉こそが届くのです。

 使う言葉が変わると、行動も、世界の見え方も変わる。そう感じさせてくれる本書を読めば、来年に実現していてほしい自分のビジョンを、言葉から手繰り寄せることがきっとできるはずです。

文=神保慶政

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