「基本自炊」がなぜ「料理好き」に変換される? ジャッジされない「無痛恋愛」を求め、さまよう者たちの、痛快恋愛冒険マンガ!?

マンガ

公開日:2022/12/29

わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜

 20代の頃、「料理ができない女」ぶっていた。実際にはレシピを見ればそれなりには作れる程度であり、うまくはないができないわけでもなかった。たいていの人がこんなもんなのではないかと思う。ではなぜ、“料理できないキャラ”をやっていたのか。当時は自分でもよくわかっていなかったが、今ならわかる。

 料理をする=家庭的な女枠

 私はここから全力で逃げたかったのだ。

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わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』(瀧波ユカリ/講談社)の1巻冒頭、主人公のみなみは「へ~ みなみちゃん 料理好きなんだ~ 女の子って感じでいいなあ~」と飲み会で男性から言われる。即座にみなみは〈「基本自炊」が「料理好き」に変換されるのどういうことかな〉とツイート。「やーあれです 低賃金だから」と返すも、「いやいやそんなことないでしょー 作るってことは好きでしょー」と取り合わない。アホなのだろうか。話聞いてンのか? ああん? ……とマンガに向かってブチギレたくらいには腹が立つし、悲しいことにものすごく“あるある”だ。

 もう少し具体的に言うと、「女の子って感じ」とはすなわち、「結婚したら料理して掃除して洗濯して子どもの面倒ひとりで全部見て義実家や親戚付き合いで召使い同然に働き三歩下がって男を立てる女の子って感じ」である。

 別に「料理好き」とはひと言も言っていない。ただ単に、生きるために食材を切り、火にかけているだけだ。それだけで「女の子って感じ」とジャッジされる。じゃあなんなのか、トイレに毎日行くんだー、トイレ好きなんだねー、となるのだろうか。そうはならないだろう。

『わたしたちは無痛恋愛がしたい』では、日々こうしたジャッジにさらされることに辟易し、思ったことをTwitterの鍵垢でぶちまける「鍵垢女子」こと星置みなみの視点で物語は展開する。

わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜

 このみなみ、あきれるほどに恋愛体質で、傷ついても傷ついても懲りずに恋愛をする。みなみの友人の由仁はその姿を見て、〈要は「無痛恋愛」をしたいってことなんだな〉と分析。

 皮肉なことに、あれほど「ジャッジ」されることを嫌がるみなみが、作中で出会うとあるおじさんに対し、〈「おじさんは無理」って感覚的に思っちゃった〉〈一緒にいたら他の人たちからどう思われるか…って〉とジャッジする場面もある。

 ジャッジされない関係は心地がいい。痛みがない。無痛である。無痛な人間関係の中から恋愛は発生しうるのか、を考えるのも本作のテーマであるように思う。

わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜

 時は進んだ2巻終盤、10年たって「言葉」を手に入れたみなみが、人間関係の中での痛み、違和感や疑問、これらをときほぐしていくさまは見ていて痛快だ。「言葉」を持っていなかった若いみなみは、その傷の正体もわからぬままに鍵垢にぶちまけるだけだった。自分の身を正しく守るには、一にも二にも「言葉」が必要だ。本作を通して一人でも多くの人が、自分や誰かの傷を知り、言語化し、対話し、あらゆる痛みがやわらぎますように。

文=朝井麻由美(@moyomoyomoyo

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