『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』著者の大人気小説、待望のコミカライズ! 季節を顕現する現人神と、その護衛官たちが織りなす和風ファンタジー

マンガ

公開日:2023/1/4

春夏秋冬代行者 春の舞
春夏秋冬代行者 春の舞』(小松田なっぱ:漫画、暁 佳奈:原作、スオウ:キャラクターデザイン/白泉社)

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で熱狂的な人気を巻き起こした暁 佳奈氏の最新シリーズ「春夏秋冬代行者」(暁 佳奈/KADOKAWA・電撃文庫)。春・夏・秋・冬の4つの季節を、神に代わって世に顕現する役割を担う「代行者」と、命を賭して代行者を守る「護衛官」たち。

 独創的な設定と緻密に構築された世界観、キャラクターたちの紡ぎだす切なくも尊い関係など、魅力を挙げたらきりがないこの作品が『春夏秋冬代行者 春の舞』(小松田なっぱ:漫画、暁 佳奈:原作、スオウ:キャラクターデザイン/白泉社)として待望のコミカライズ! 原作のイラスト担当スオウ氏のキャラクターデザインに基づいた、小松田なっぱ氏の描くキャラクターたちは、マンガ的なかわいらしさと美しさ、そして生き生きとした躍動感に充ちている。

 たとえば春の代行者・花葉雛菊(かよう・ひなぎく)が、春を知らない少女なずなの前で春を顕現する場面だ。

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春夏秋冬代行者 P046

春夏秋冬代行者 P047

春夏秋冬代行者 P048-P049

 扇を軽やかに振り、舞をひとさし舞った直後の見開きページで、雛菊の背景では桜が満開に。シャン、シャン、シャンという効果音まで聞こえてきそうな空気が生まれている。どこか幼さの残る雛菊の風貌は、顕現の儀式の間は厳かな表情となり、それを見守る護衛官・姫鷹(ひめだか)さくらの目に浮かぶ涙に胸を打たれる。

 この物語は大和(やまと)の地に、10年ぶりに春の季節が戻ってきたところから始まる。

 10年間、春がなかったということは、その間、春の代行者が不在だったということだ。雛菊は10年前に誘拐され、つい最近戻ってきたばかりなのだった。誰に、何の目的で拉致されたのか。10年もの間、彼女はどのようにして生きてきたのか。それはまだ1巻では明かされない(気になる人には原作小説もおすすめだ)。

 この巻で強く伝わってくるのは、雛菊とさくらの主従を超えた深い結びつきだ。

(――あぁ やはり私は この人の為に死のう)

 それが自分の幸せだと雛菊に語るさくらの、充たされたような泣き顔と、まっすぐにさくらを見つめて微笑む雛菊。

春夏秋冬代行者 P098

春夏秋冬代行者 P099

春夏秋冬代行者 P100

春夏秋冬代行者 P101

 2人には分かっている。誘拐されていた空白の10年間より、これからの方が自分たちはもっと傷つくだろうと。それでも、2人でいるなら耐えられる。さくらが守ってくれるなら、自分は代行者として在り続けられる――。

 現人神という呼び名を体現するかのような神々しい雛菊の姿に、さくらならずとも目を奪われてしまう。

 冬の季節の代行者、寒椿狼星(かんつばき・ろうせい)とその従者・寒月凍蝶(かんげつ・いてちょう)のパートも始まる。生還した雛菊を心から案じながら、自責の念に囚われて会いに行けない狼星。そんな狼星を大人の余裕で見守りつつ、彼の苦しみに寄り添う凍蝶。この2人独特のバディ感が鮮やかに再現されていて、原作ファンにとっても嬉しい限りだ。

春夏秋冬代行者 P118

春夏秋冬代行者 P119

 交通事故に遭った車に取り残された子どもたちを助けるため、狼星が冬の力を行使する場面も印象的だ。ビキビキッという音と共に、辺り一面を瞬時にして凍りつかせ、氷の白い花を咲かせる狼星。怯える子どもたちを救助することで、かつて雛菊を救えなかった過去を思い出し、それでも、やはり彼女が好きだと再確認する。

 2巻以降では、春の主従と冬の主従の過去、10年前の忌まわしい誘拐事件、そして雛菊と狼星の再会に向かって、さらにドラマチックな展開が待っている。

 季節は折しも冬。寒さを存分に感じつつ、春の訪れを待ちながら読むのにぴったりの物語だ。

文=皆川ちか

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