映画公開間近! 期待・不安・後悔・羨望……少女たちの気持ちを鮮明に切り取る朝井リョウの小説『少女は卒業しない』

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/9

少女は卒業しない
少女は卒業しない』(朝井リョウ/集英社)

 2023年2月に公開される映画『少女は卒業しない』。2022年に8本もの映画に出演した若手注目女優・河合優実さんが主演、相手役を俳優・窪塚洋介さんの息子・窪塚愛流さんが務めるなど、注目の若手俳優が多く出演することでも話題の一本です。そしてこの映画の原作が、朝井リョウさんの『少女は卒業しない』(集英社)。10年前、朝井さんがまだ20代前半だったころに書かれた本作は、デビュー作『桐島、部活やめるってよ』にも似た、ストレートな青春小説です。

 廃校が決まった地方の高校の、最後の卒業式。その日にさまざまな気持ちを抱える7人の女子高生を主人公に、7話のオムニバス形式で本作は進みます。1話目、「エンドロールがはじまる」は、先生と、彼に恋する女の子の物語。卒業式の朝、最後のふたりきりの時間を描きます。「在校生代表」は全編が送辞の言葉として書かれる特殊な構成。その中で主人公が卒業する生徒会長へ思いを伝えます。このように、本書の物語の多くで描かれるのは恋心。切ない片思いあり、両思いなのに片方の状況で別れを選ぶカップルあり。憧れや尊敬の込もった、これが恋なのかお互い自身にもよくわかっていないようなふたりもあり。そのどれもに、高校生というまだ自分自身も定まらない時期に、相手だけを見過ぎてしまったり、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまったり……。そんな後から振り返れば甘酸っぱいけど、その時は真剣すぎた気持ちが、みずみずしく描かれています。

 一方で、恋愛感情だけではない、さまざま様々な感情が切り取られているのも本作の魅力。地方の中学受験・高校受験となると選択肢の範囲は限られ、通学できる範囲で自分の学力に合う学校を選んできたこれまで。しかし高校卒業となれば就職・大学進学・上京……それ以外の道もあり、選択肢は無数に広がります。高校の卒業式というのは、その中で自分で選択し、努力し、結果が決まったタイミング。つまり自分の意志で初めて選んだ人生が始まる瞬間でもあるのです。そんな期待と不安の入り混じった感情を、朝井さんは「自分の進路が普通すぎる」と思っている女の子や、強い意志で人とは違う道に進むことを決めた人に託して描きます。

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 7作の中でも筆者が特に好きなのが、最後の一編でもある「夜明けの中心」です。卒業式の終わった夜、本編の主人公・まなみは夜の校舎に忍び込みます。すると教室にはすでに、まなみと彼女の彼氏・駿の共通の友人・香川の姿が。まなみと駿の幸せだった高校生活。同じ剣道部で、天来の才能がある駿と、努力で駿を抜こうとずっと自分を律してきた香川の複雑な友情。そして高校生活最後の日を迎え、ある出来事から前に踏み出せなくなってしまったまなみと香川の現在。物語は複雑に場面転換しつつも、夜明けへと駆け抜けます。その夜明けはまなみと香川がそれぞれの人生とまた向き合う瞬間であり、この取り壊される校舎を出ていく生徒たちが明日へと旅立つ瞬間でもある。そんな爽やか読後感に包まれる一編です。

 あのころが遠い大人になっても、人生の新しいステージに立った瞬間の気持ちを思い出せる。『少女は卒業しない』は、そんな誰にでも響く青春小説です。

文=原智香

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