殺し屋が金をもらって恨みをはらす、アウトロー時代劇『必殺仕掛人』が始まって50年! その歴史を当事者が語り尽くす、分厚い証言集

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公開日:2023/1/14

必殺シリーズ秘史 50年目の告白録
必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』(高鳥都/立東舎)

 効率良く、できるだけ早く本を読むコツは、まず前書きと後書きを熟読し、目次を見渡して全体像をつかんでから、タイトル(副題含む)が何を意味しているのかを考えながら読み始めることだ。前書きと後書きにはその本の作者の思いが込められており、タイトルは本の内容が凝縮されたものなので、その本の勘所を外さずに読めるようになる。私は取材前など準備のために短時間で何冊も読まないといけない場合、この方法を駆使して情報を得るようにしている(ただし小説はその限りではない)。

 しかしこの本を読むのにはやたらと時間がかかってしまった。必殺シリーズに関わったスタッフ、出演者ら総勢30名にじっくりと話を聞くインタビュー集『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』(高鳥都/立東舎)だ。

 トランペットが「パラパー」と高らかに響き渡り、合いの手にビブラスラップ、そこへ繊細なストリングスと地鳴りのようなティンパニーが加わり、一気に西部劇な雰囲気と和を感じる情緒的なメロディーが絡み合って疾走する必殺のテーマ曲は、ドラマを見たことがない方でも知っている超有名曲だろう。それもそのはず、必殺シリーズは1972年9月に『必殺仕掛人』が始まってから2022年で半世紀、50年の節目を迎えた長寿ドラマなのだ。毎週のレギュラー放送枠は30年前の1992年で終了したものの、舞台化や映画化、オリジナルビデオ化などもあり、2007年からは東山紀之主演でスペシャルドラマ版や連続ドラマが放送されるなど、現在も“必殺シリーズ”の歴史は連綿と続いている。

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 本書は必殺シリーズを作り出し、長年受け継いできた関係者の方々に、どのようにドラマが作られてきたのかを著者の高鳥都氏が聞き出していく証言集だ。必殺の特徴である光と影の映像、演出や脚本について、特殊な音効や撮影方法、劇中で生き、死んでいったあんな奴こんな奴のこと……それを『必殺◯◯◯』の第●話の誰々のあのシーンですよね、とピンポイントでサジェストをして話を促していくのである。これは生半可な付け焼き刃の知識ではできないことだ。膨大な知識と限りないドラマ愛を持つインタビュアーが誘い、インタビュイーの記憶の底に眠っていた出来事を引き出せるからこそ、視聴者の印象に残っていた映像がくっきりと浮かび上がってくる内容が聞けたのだ。これぞまさに本書のタイトル「秘史」たる所以である。

 私がやたら読むのに時間がかかってしまったのは、その細かなエピソードを確認するためいちいち読む手を止めてシリーズを録画したディスクを探し出して観直し、なるほどこのシーンにはそんなエピソードがあったのか、と繰り返していたからだ(まだまだ確認したいことはあったのだが、早くレビューを書くため一連の動きを止め、読書に集中した次第)。

 本書は全体を4つの「ロール」に分け、各パートで仕事をされた方々を丹念に取材していく。すでに鬼籍に入った大御所俳優や監督、スタッフたちの名前が次々と飛び出し、当時の京都映画撮影所(現松竹撮影所)にまつわる歴史的なエピソードや裏話も盛りだくさんで、圧倒的エネルギーに満ちていた時代が活写されていく。行間からは撮影所で働く人たちの喧喧囂囂や息遣いまで聞こえてくるほどで、さながらこの本が一本の熱血ドラマであるかのようだった。また『必殺仕置人』『新必殺仕置人』で念仏の鉄を演じた山﨑努さんのインタビューはファン必読だ。一度演じた役を二度とやらないことで有名な山﨑さんがなぜ鉄を2度演じたのか、その思いが伝わってくるようなお話だった。

 シリーズ初期から番組作りに関わった多くの方たちにこれほどの熱量で迫れることは、年齢的なこともあるため、この先かなり難しくなるだろう。しかし本書のタイトルは「50周年」ではなく「50年目」だ。必殺シリーズは今も続いている。撮影所での血風録も、これからまだまだ続いていくのだ。

文=成田全(ナリタタモツ)

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