「後味の悪さがクセになる」と話題の湊かなえ『カケラ』が文庫化!読書家たちはどう読んだ?

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/7

カケラ
カケラ』(湊かなえ/集英社文庫)

 自分の理想の姿くらい自分で決めたいし、自分の幸せだって、自分で決めたい。太っていても痩せていても、一重でも二重でも、背が低くても高くても、当人が幸せならば、それでいいはずだ。だが、「美」から外れているものは、それだけで不幸に思える。どうして私たちは外見というものにこんなにも固執し、人の幸せを勝手に決めてしまうのだろう。

 湊かなえの『カケラ』(集英社文庫)は、そんな容姿にまつわる固定観念を炙り出す心理ミステリーだ。地の文や会話文は一切なく、一人語りだけで綴られていくスタイルは、湊のデビュー作『告白』(双葉文庫)を彷彿とさせる。全7章、章ごとに語り手を変えながら語られるのは、大量のドーナツに囲まれて自殺した田舎町の少女に関すること。多くの読書家たちの間で「後味の悪さがクセになる」として話題を呼んでいる作品なのだ。

 語り手たちの話を聞いているのは、元ミス・ワールドビューティ日本代表で、テレビでも有名な美容外科医・橘久乃。たとえば、第1章では、久乃の幼馴染が「痩せたい」として彼女のもとを訪ねてくる。久乃が聞かされたのは、小学校の同級生・横網八重子の娘・有羽が亡くなったということ。八重子は太っていて陰気な性格だったが、娘の有羽は太っていたけど、明るく、運動神経もよく、笑顔も素敵な人気者だったらしい。だが、有羽は高校2年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかった。八重子の揚げるドーナツが大好物だったという有羽。どうして彼女は死ななければならなかったのか。どういうわけか久乃は、有羽の同級生や、有羽の中学・高校の担任などからも話を聞き出していく。

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 ひとりひとりの独白から少しずつ自殺の真相が明らかになっていく。そんな物語を読書家たちはどう読んだのか。

早蕨
久しぶりの湊かなえさん作品だったが、様々な人の話を通じて徐々に真実に近付いていくところには彼女の原点を感じた。太っているから、痩せているから、二重だから、一重だから、それは不幸せ/幸せなのか?その人にしかわからないことはある。自分の中の正義はあれど、それが常に正しいわけではない。思いやりが傷つけることもある。人の関わり合いの難しさを目の当たりにした。

アッキー
容姿については他人がどうこう言う問題ではないのだろうけれど。そういった問題の難しさを浮かび上がらせるように進んでいく。それを普通に描くのではなく、一人ずつインタビューという形式で進んでいくところも凄い。その中で自殺した人物がどのような想いだったのかが見えてくるようだが、章ごとに見え方が変わってきて、最後はやはり当人しかわからない。後味の悪さはさすがという感じ。

ねこやまねこみ
人間にとって、人を完全に見た目で判断しないってことは出来ないと思うんだけど、その残酷さとか現実がミステリーを追いながら上手く表現されていたと思う。さすが湊かなえ先生です。私にとっても人への見方が変わるきっかけになる本かもしれないと思った。

ちひろ
事件についての様々なインタビューから、一見関係ないと思われたカケラが繋がっていき、それぞれの人物像が浮かび上がってくる様がおもしろかった。真相はさほど重要ではなく、世間がどう捉えるかが重要になってくる。現実と重なる部分も多かった。

もぐたん
人が抱くコンプレックスと、幸福感はその人のもので、決して他者の目からは真実を見抜けないし、勝手な思い込みはときに人を傷つける。いつもと趣の違う湊作品だった。

 多くの読書家たちはこの物語から、人間が抱える美醜への執着と、人の関わり合いの難しさを感じ取ったらしい。私たちは、人を外見で判断せずにはいられない。男も女も、多かれ少なかれ、見た目をジャッジされながら生きているし、同様に自分もまた他人をジャッジしながら暮らしている。勝手な思い込みで相手に接し、相手へ偏った基準を押し付けてしまう。それがどんな事件を巻き起こすのか。この物語で描かれていく悲劇には思わず、目を覆いたくなるだろう。

 美の持つ力とは何か。幸せとは何なのか。多くの読書家たちを魅了したこの本を、あなたも手にとってみてはいかがだろうか。不愉快なのに、不愉快だからこそ、続きが気になる。最後まで読み終えた時、あまりにも残酷な真相にしばらく放心させられる。この後味の悪さはさすがは湊かなえ作品。多くの読書家たちを惹きつけるのも納得の1冊だ。

文=アサトーミナミ

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