彼らは“正体”を隠して近づいてくる。元旧統一教会信者が明かす“勧誘”の手口とは――『信じる者は、ダマされる。』

社会

公開日:2023/1/19

信じる者は、ダマされる。
信じる者は、ダマされる。』(多田文明/清談社Publico)

 2022年、もっとも注目を集めた宗教団体と問われ「旧統一教会(世界基督教統一神霊教会)」と答える人も多いはず。とくに、信者から多額の寄付を募る「献金」と呼ばれる彼らの集金方法が問題視され、今もなお議論が続いている。同教団に関する一連のニュースを見て、こう思った人もいたのではないだろうか。

「なぜ、そんなにお金を払ってしまったんだろう」

 また、「自分なら入信しない」など、自信を持っている人もいるかもしれない。しかし、旧統一教会が行っている勧誘や集金活動は、多くの人々が被害に遭っている“詐欺・悪質商法”が駆使する手口と似ているため、一度でも関わりを持つと回避するのは非常に難しいという。『信じる者は、ダマされる。』(多田文明/清談社Publico)は、“元統一教会信者”という経歴を持つ、ジャーナリストの多田文明さんが、自身の経験と知見をもとに執筆した一冊。同書は多田さんが旧統一教会に入信した経緯や、信者時代に行っていた活動を赤裸々に語っているだけではない。旧統一教会が取り入れている勧誘や集金の方法と、日本で横行する詐欺や悪徳商法の手口との共通点を説き、日常に潜むさまざまな“ダマされるリスク”についても具体的に綴られた実用書にもなっている。

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 その共通点のひとつが、勧誘する際の「正体隠し」だ。多田さんが、旧統一教会に入信したのは大学時代。友人に誘われて参加したバレーボール大会が、すべてのはじまりだったという。バレーボールをして汗を流した後、喫茶店で「うちのサークルでは自己啓発の勉強をしているので、来てみませんか?」と言われた。スポーツをしたあとの高揚感も手伝い、参加を快諾。後日向かったのが「ビデオセンター」という、教団が運営する施設だった。このように、初めに自らの正体を明かさずに誘い込む手法は、詐欺・悪徳商法の世界でもよく使われるテクニックだという。

 元マルチ商法グループに約4年間所属していた男性・A氏の場合は、街コンだった。ちなみに「元マルチ商法グループ」と表記している理由は、このグループの勧誘方法の悪質性がマルチ商法の本体で問題になり、最終的にその業者から抜けたためだという。

 A氏はごく普通の街コンで30代の女性と知り合い、連絡先を交換した。それ自体は珍しくない展開だが、後に、彼女は初めから“勧誘目的”でイベントに来ていたことが判明したという。

 当時の彼は、そのような彼女の目的は知りませんので、気軽にLINEを交換します。2カ月後、ボードゲームのイベントに誘われます。場所は都内のタワーマンションでした。
 このとき、彼は『イベント参加者に危なそうな人はいないか?』と思い、注意深く見てみたそうですが、『みんな感じのいい人ばかり』だったので、警戒心を解いて参加しています。
 私もさまざまなイベントに誘われた経験がありますが、人の性格はいろいろで、ひとりぐらいは嫌いな人物はいるものです。そうした人がひとりもおらず、みんながいい人というのは、思想が一致している可能性があり、逆に危険なのです。

 緊張している場面で“みんないい人だ”と感じると、安心して警戒心もほぐれる。人間の心理をついた、巧妙な手口といえる。その後もA氏は、何度かイベントに参加するうちにグループの一員になってしまった。そのほか、フットサルサークルや合コンが、同グループに入会するきっかけになったケースもあるという。

 そうして擬態した彼らの正体を見破れるか、と問われたら、自信がない人も多いのではないだろうか。この『信じる者は、ダマされる。』を読めば、あなたを狙う人々の正体が、少しだけ見えてくるかもしれない。

文=とみたまゆり

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