編集者、妻子あり、千葉在住。40代の倦怠と哀愁漂うハードボイルド

小説・エッセイ

2011/9/9

苦い雨

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:樋口有介 価格:540円

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零細業界誌の出版社を営む高梨は、42歳。妻の沙希子とは高校から思い続けて、子持ちバツ一となった彼女を口説き落として結婚。結婚後十数年を過ぎ、その関係は倦怠がつきまとう。

以前勤めていた「バイオル化学」から、亡くなった前社長の愛人を探せ、という「仕事」を請け、編集者の彼の探偵のような2週間が始まる。この愛人は、関わったオトコは全て地獄を見ているという「魔性の女」。主人公とも過去の接点があり、彼女を探す高梨は自分の過去も振り返らざるをえなくなってくる。

バブル崩壊直後の東京の沈滞感や、絶望感といった雰囲気が、主人公の気だるさを通してとてもよく描写されていて、誰もがあの時代にすんなりとトリップできるのでは。さして魅力的でもない主人公なはずなのに、どんどん読ませる勢いがあるのは、「あるあるある!」という典型的な女のモデル、どこにでもいるタイプの男たちの野望や妄想、そういったアイテムがよく整理されて各所に練りこまれているから。「魔性の女」探しも、舞台を東北へ移したり、謎の妹? 娘? が登場したりと、退屈させません。

自然食品を愛し、自分で石鹸やシャンプーを作り、北海道への移住を夢見ている妻。金と権力をたくみに嗅ぎ分け、パトロン探しと生き残りに巧みな銀座の女たち。まったく違う世界に住む女の対比も巧みです。その間でゆらりゆらりと気持ちを揺らがす主人公。大手銀行が仕掛ける、大人気商品をかかえる「バイオル化学」の買収劇。社内生き残りゲームに隠された罠、策略。誰も信用できない状況…。

サラリーマン小説かと思って読み始めましたが、立派なハードボイルド。家庭を守りたい普通のサラリーマンが主人公という印象も、読後にはがらりと変わります。なかなかの渋みを持つ男。社会に属しても、家族に属しても、結局は孤独をまとって生きてゆく主人公に自分を重ねる人も多いのでは。日常から軽くトリップするにはもってこいのスタンスをもった作品です。

通勤電車が、この小説の最適な読書空間かと。

梅雨の始まりが物語りの始まり。全体を通じて倦怠感の描写がうまい!

妻は高校からのつきあい。「魔性の女」は東北出身の銀座の女。その対比もおもしろい

年頃の娘とのやりとりにも気だるさがつきまとう。このあたり、世の中のお父さんの共感度アップでは