竜星涼主演ドラマ原作!スタートアップをテーマにした「スタンドUPスタート」の面白さとは?

マンガ

公開日:2023/1/31

スタンドUPスタート
スタンドUPスタート』(福田秀/集英社)

 10年前、私が大学生のときは、まだ大企業に入り、終身雇用で勤務することこそベストだという風潮が残っていた。ありがたき終身雇用制度が崩壊したと言われる一方、日本は相変わらず起業後進国のままだ。つまり今は、誰もが不安定な中、めまぐるしく変動する時代を生き抜かなければならなくなっている。

スタンドUPスタート』(福田秀/集英社)は、そんな時代を反映した「スタートアップ」をテーマにした漫画だ。『週刊ヤングジャンプ』にて連載中で、2023年1月に竜星涼主演のドラマが始まった。

「“資産は人なり”。資産を手放す投資家はいない!」

 投資会社の社長である主人公・三星大陽はそう言いながら、悩む人々に起業をもちかける。第一話で登場するのは、不器用で取り柄もなく、会社の負債と嗤われる中年男・林田。「人間投資家」と名乗る大陽に、「スタートアップしよう!」と言われるが……。基本的にオムニバスで話が進み、9巻まで発売中だ。

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巧みで力強い絵と、時に容赦のないストーリー

 最初にこの漫画に出会ったのはマンガアプリ「ゼブラック」の無料公開だったと思う。1巻を読み、すぐコミックスを全巻買いに走った。過去の栄光にすがる「イタい」おじさんだった林田が、主人公の大陽と出会い(巻き込まれ?)、どんどん変わっていく。そのストーリーの面白さと、キャラクターの印象的な表情に引き込まれた。

 新連載で40代のおじさんがメインを張るヤンジャン作品とは……と衝撃を受け、作者・監修・編集のお三方にインタビューを実施したほどだ。(https://ddnavi.com/interview/923342/

 週刊連載というハードなスケジュールの中、絵も話もいつも密度が濃く、面白い。その高い画力と巧みなストーリーテリングは時に容赦のなさ、人の怖さに全振りされ、ヒッ……と背筋が凍ることもしばしばだが、そこもまた魅力。スタートアップには、新技術や運営方法など、時に複雑なビジネス用語や状況が登場する。それをさらっとわかりやすくストーリーに落とし込み、現代の社会・ビジネスの構造や問題を知ることができる。また、主人公には「財閥大企業の次男」というバックボーンがあり、大企業とベンチャーの2つの側面が描かれているところも面白い。

たくましく生きる登場人物たち

 各話の登場人物は、大陽との出会いをきっかけに、自分自身の生き方を切り開いていく。その姿は爽快で、とてもわくわくする。ストーリーと登場人物は連綿と繋がり、時にベンチャーの抱えるキビしい現実も時に織り込まれつつ、彼らの成長した姿、相変わらずなところが見られる。

 例えば、1巻の最後に武藤という、リストラされた弱気なおじさんが登場する。また、おじさんを取り上げて申し訳ない。念のため言っておくと、この漫画には女性も若者もバンバン登場し、スタートアップに挑戦する。女性の細かな書き分けもすごいので注目してほしい。

 その後おじさん(武藤さん)は大陽と関わることになり、めでたく4巻の表紙に泣き顔で採用される。

「失敗したことより挑戦したことを 俺だけは絶対に見てますから!」

 1巻では立ち直れずうつむいていた彼が、同じリストラ仲間を立ち上がらせる。さらに、「回収できない投資にはお金を出さない」という投資家としてのボーダーラインを捨てる寸前まで追い込まれた大陽にも力を与える。その成長は目を見張るものがあり、私の大好きなエピソードだ。きっかけは大陽。でも、登場人物たちは自分の力で立ち上がり、リスクや不安を乗り越えて自分の人生を輝かせていく。

 他にも、

「俺のステージを俺がバカにするな!」(2巻)
「煩悩だらけですけど!?悪い!?」(8巻)
「自分の“好き”を否定されるのは——むかつくもの」(9巻)

 などなど、名言がてんこ盛りの作品なので、ぜひ自分にハマる言葉を見つけてほしい。

きっと「資産」になる漫画

 ちなみに、作中で一番謎な人物が主人公の大陽である。彼の過去や兄弟の関係など、まだまだ謎も多いこの作品。きっとこれからさらなる面白さがひろがっていくのだろう。単純すぎる読者でお恥ずかしいが、この作品を読むと、私はつい行動してみたくなる。起業まではいかなくとも、この漫画がきっかけでどんどん興味がひろがった。その知識はレビューする本の内容が深く理解できるなど、色々なところで役立っている。

 新たな生き方、働き方を示す『スタンドUPスタート』。きっと読んだら、あなたの「資産」になってくれるはずだ。

文=宇野なおみ

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