実は身近な「特殊詐欺」。自分と家族を守るためのノウハウ満載

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公開日:2023/2/2

ルポ 特殊詐欺
ルポ 特殊詐欺』(田崎基/筑摩書房)

 オレオレ詐欺や還付金詐欺、架空請求などの犯罪は「特殊詐欺」と呼ばれている。警察庁の発表によれば、令和3(2021)年における「特殊詐欺の認知件数」は前年比7%増の14,498件で、被害額は282億円にのぼっており、どれほど広く啓発されていても、これほどまで被害に苦しむケースが多いとは驚く。

 相次ぐ特殊詐欺事件の裏側には一体、何があるのか。その背景に迫る書籍が『ルポ 特殊詐欺』(田崎基/筑摩書房)である。メディアでは、被害者の視点を中心にその実態を伝える事例が目立つが、本書は「犯人側からの視点」による証言や「事件の詳細」や「背後関係」を伝えているのが特徴だ。

 神奈川新聞の記者として様々な特殊詐欺事件の裏側を追った田崎基氏の記録は、本書の帯にあるとおり、まさに「今、最も身近で凶悪な犯罪のリアル」を映し出している。

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 本書によると、特殊詐欺は組織化されており、以下のように「大きく3つの実働部隊によって成し遂げられている」という。

1つは、騙しの電話をかける「かけ子」グループ。もう1つが、かけ子によって騙された人のところへ行き、現金やカードを受け取る「受け子」、さらにそのカードを使って金を引き出す「出し子」だ。受け子と出し子を合わせて「UD」と呼称することもある。

 特殊詐欺に巻き込まれるケースは自身が被害者になる場合とは限らない。SNS上にある「高収入バイト」や「闇バイト」といった、いわゆる“一見おいしい話”に飛び付いてしまい、詐欺グループに加担してしまう人もいる。

 例えば、ツイッター上の「闇バイトしませんか?」の言葉に反応したことをきっかけに「出し子」や「受け子」となり、のちに、ATMの前で現行犯逮捕された「上原通雄(仮名、逮捕当時24歳)」はその1人だ。

 この「上原」の場合、最初の話では「スマホを1日貸すだけで1万円がもらえる」という手軽なバイトのはずだった。

 しかし、途中から、指示役の態度が急変し「今までやったバイトは詐欺だから。バラされたくなかったら、今から送るマニュアル通りにやれ」とふっかけられたのをきっかけに、詐欺グループの一味に加わることになった。

 明らかに特殊詐欺と分かり「このままではいつか逮捕される。もうやめたい」と思ったが、もはや手遅れ。詐欺グループから抜け出そうにも叶わず、ツイッターで“個人情報”を晒すと脅され、指示役に「もうやめたい」と伝えたときは、見知らぬ男に背後から突然殴られたという。

 その後、再び電話をかけてきた指示役から「これで分かっただろ。逃げられると思うなよ」と告げられたという証言は生々しく怖い。ただ、軽い気持ちでこの話のように「犯人側」へと加担してしまう可能性が、誰にでもあるという側面があるのも特殊詐欺の「リアル」なのである。

「犯人側の視点」で特殊詐欺に迫る本書は、テーマに対する視点の妙もあり、のめり込むように読んでしまう。そこから得られる見識は、自分や家族、友人など周囲の人々を特殊詐欺から守る手段にもなりうるはずだ。

文=カネコシュウヘイ

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