諦めがちな大人に読んでほしい青春バンドマンガ。『ぼっち・ざ・ろっく!』イケてない少女が飛び込んだバンドマンの世界

マンガ

公開日:2023/2/4

ぼっち・ざ・ろっく!
ぼっち・ざ・ろっく!』(はまじあき/芳文社)

 自分には無理!と、何かを諦めた経験はありますか?

 誰にだって一度は覚えがあるでしょう。自分には才能がないから無理だ、私はあの子と違ってキラキラできない…! そんな暗い感情を一度でも抱いたことがある人にオススメしたいのが『ぼっち・ざ・ろっく!』(はまじあき/芳文社)。陰キャ(イケてない)少女が立派なバンドマンを目指す音楽マンガです。

 バンドマンといえば歌で多くの人を勇気づけ、明るく手を差し伸べてくれる陽キャ(イケてる人)の職業だというイメージがありますが、本作の主人公・後藤ひとりは陽キャとは真逆の性格の持ち主。決して王道とは言えない主人公像を持つ彼女がバンドマンを目指す物語は、なぜここまで読む人を魅きつける力を持っているのでしょうか?

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身に覚えがあるんです

 主人公の後藤ひとりは陰キャの女の子。自分から人に話しかけられない彼女は、誰かから話しかけられたいあまりバンドグッズをじゃらじゃらつけて登校して周りをドン引きさせてしまうし(逆効果!)、ついに話せる時がきた!と思ったら話している時は人と目が合わせられない不器用な性格(人見知りあるある!)。バンドマンなのに、とにかくイケてないんです。

 そんなにイケてないことある!?とツッコミを入れたくなってしまうような陰キャっぷりですが、中には笑っていられないようなエピソードも盛り沢山。例えば会話の前に思わず「あっ」とつけてしまったり、バイトが嫌だから風邪引けば休めるかな…と思ったりすること。あれ、身に覚えあるぞ…。

 最初は笑いながら読み進めていましたが、あまりに解像度の高い陰キャ少女の描写は筆者にグサグサと突き刺さり、いつの間にか難儀な性格ながらも必死に生きるひとりを応援していました。大丈夫、君の気持ちをわかってくれる読者はたくさんいるぞ…!

 やがて作中にも、ひとりを理解してくれる仲間たちが登場してきます。

えっ…そうなの!?

 バンドメンバーがなかなか見つからないひとりに声をかけてくれたのは、ドラマーの虹夏。後に虹夏の同級生でベーシストのリョウが合流し、「結束バンド」というバンド名で活動することになりました。

 結束バンドが主に活動する場所は「スターリー」。虹夏の姉が経営しているライブハウスです。

 ライブハウスで音楽活動をするということは当然お金が必要で、チケットを売ってお客さんを集めなければいけません。その際に必ず考える必要があるのが、チケットノルマ。ライブハウスで活動するバンドマンがチケットが売れなければ自腹で赤字を埋め合わせなければいけません。そんな仕組みなんだ…!

 ノルマが達成できなかった時に備えて、ひとりはライブハウスでのバイトを勧められました。仕事内容は掃除やドリンクの提供です。ドリンクの提供? ライブハウスで? そうなんです。興行場が営業する条件が厳しいため、多くのライブハウスはドリンクを提供することで便宜的に飲食店として経営されています。だからドリンクの提供が仕事になるんです! この知識も作中に描かれているもの。いつか役に立つこと間違い無し!

 バンドマンって、シビアな世界なんです。意外と知らないライブハウスの裏側まで知れてしまう『ぼっち・ざ・ろっく!』。解像度の高い知識の数々に作者のこだわりが感じられました!

やっぱり魅力は”人間模様”だ

 解像度の高さはバンド界隈の知識だけではありません。

 筆者がそう感じたのは、喜多という女の子の存在。彼女はひとりと同じ学校のキラキラ女子で、ギターと歌が上手いと噂の女の子。でもこれ、実は尾ひれがついた噂でした。というのも喜多は憧れの先輩に近づくために、ギターが弾けると嘘をついていたのです。

 でも喜多を責めたくない。ギターを買ったけどできなくて投げ出した経験って、あるあるだと思います。だってギター、難しいですもん…。周りに教えてくれる人がいないと、本当に続かないんです。楽器って。

 喜多は自分の過ちを重く受け止め、ひとりにギターを教わりたいとお願いしてきました。そして上手くなって、逃げ出してしまったバンドに謝りに行きたいと。喜多は見た目だけでなく、心もキラキラな女の子でした。

 実はこの作品、誰もがちょっとした後ろめたさを抱えて生きてます。喜多はギターから逃げてしまったし、ひとりは超がつくほどの陰キャ。虹夏もリョウもまた、それぞれ想いを抱えて音楽に向き合っている。

 音楽に関する情報も豊富ですし、そんな世界に身を投じる女の子たちはとても魅力的。隙がない『ぼっち・ざ・ろっく!』はバンド好きもそうでない人にもオススメしたい!

でも、やりたいなら

 音楽だったり、絵だったり、スポーツだったり。歩むこと自体が大変な道のりはたくさんあります。しかしやってみる前から、自分には無理!と諦める必要はありません。陰キャだって、ロックをやっていいんですから!

 何かを諦めてしまったことがある人、諦めようとしている人は、一息ついて『ぼっち・ざ・ろっく!』を読んでほしい。もしかすると、かけがえのない1冊になるかもしれませんよ!

執筆:ネゴト / 星月まふゆ

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