『東京卍リベンジャーズ』がSFとヤンキーの王道ジャンルで起こした革命。最終回を迎えた傑作マンガの画期的アイデアをあらためて振り返る

マンガ

公開日:2023/2/6

東京卍リベンジャーズ
東京卍リベンジャーズ』(和久井健/講談社)

 2021年のアニメ化を期にその人気を加速させ、大勢の読者に見られながら2022年11月に最終回の大団円を迎えた『東京卍リベンジャーズ』(和久井健/講談社)。漫画のみならずアニメや舞台、そして実写映画などそれら多彩なメディア展開の影響もあってか、その盛り上がりはまだまだ衰える気配を見せることはない。

 様々なメディアミックスを経て、しかし同時にそのどれもが大きな支持を集める本作。それはひとえに、やはり原作の物語が大勢のファンを熱狂させる力を持つことの証左でもあるのかもしれない。

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タイムリープの回数だけ紡がれる王道マンガ

 本作のストーリーは、一人の青年・花垣武道が中学時代に付き合っていた彼女・橘日向の死を知るところから始まる。二十代半ばにも拘わらず将来性のない人生を送っていた彼だが、ある日駅のホームで何者かに突き飛ばされ、死を前にしたことでタイムリープの能力が開花。人生の全盛期である中学時代に戻り、当時不良として喧嘩に明け暮れる武道の身を案じてくれた日向の優しさに再度触れ、彼は逃避の果てに辿り着いた自分の未来を悔いることになるのである。

 それをきっかけに過去の行動に小さな変化を起こし、偶然にも日向の弟・直人をカツアゲから救出した武道。しかし結果として彼のその選択が、タイムリープから戻った後の現代の自分の運命を変えることになる。タイムリープ前と違い、間一髪で駅のホームからの落下を救ってくれたのは、過去に戻り自分が干渉した直人だったのだ。

 未来から来たという武道の言葉を受け、努力の末に自らの運命を変えた直人。しかし一方で、それでも日向が死ぬ運命を回避することはできないでいた。タイムリープの能力を知る彼から「姉を救ってほしい」と頼まれ、彼女の優しさを思い返した武道はその願いを聞き入れることに。

 二人の設定した目標は日向の救出、及びそのカギとなる犯罪組織・東京卍會の結成阻止。これまでの人生にはない覚悟を胸に、武道は再度タイムリープで自分の未来にリベンジするため、過去の時代改変に挑むこととなるのである。

+αの要素が加わって生まれる物語の化学変化

 本作が話題を呼んだポイントのひとつに、明瞭な王道の漫画カテゴリをこれまでにない組み合わせで融合させた点がある。SFモノかつヤンキー漫画という、わかりやすい人気ジャンル。しかしその二つをかけ合わせた作品は事実ほとんど前例がなく、「その手があったか」と思わず膝を打ってしまった漫画好きもおそらく少なくないはずだ。

 周知の通り作者の和久井健氏は元スカウトマンという経歴を活かし、代表作『新宿スワン』をはじめとした青年向けの裏社会にまつわる題材を得意とする。アウトローな社会への解像度が人一倍高いという彼の強み。それはゆくゆくその社会が延長線上に存在する、はぐれ者の少年が集う不良の世界への描写にもそのまま活かされている。

 情景描写のみならず、主人公・武道をはじめとした人物の情動描写に関しても、その強みは大いに当てはまるだろう。同じ不良という、ある種閉鎖的な同世代の人種の少年たちに渦巻く、憧憬、敬慕、そして羨望や嫉妬。未だ成熟しきらない彼らの内に存在する互いへの時に固執的な感情は、こちらの胸が苦しくなるほどの膨大な熱を放つ。そのリアリティは間違いなく作者・和久井氏の経験則に由来する部分もあり、『東京卍リベンジャーズ』をより大衆的な少年漫画たらしめる要因ともなっているのだ。

 加えて作品の魅力により輪をかけているのが、主人公・武道の持つタイムリープ設定である。自らの矜持を懸け、今この瞬間にすべてを投じる十代的な刹那を大いに孕む、不良少年たちの喧嘩や抗争。しかしそれらの出来事は彼らの未来を知るからこそ、直情的であると同時にすべてに意味のあるものとして、私たち読者の目には映ってくる。

 過去の行動はまさに目の前の今に繋がり、同時に現在の自分の選択もいつかの未来と地続きになる。そんな作品の命題は、おそらく武道のようにやり直したい過去や、人生の選択をこれまで自主的に幾多も重ねてきた人間にこそより強く響くのではないだろうか。

自分の過去にケジメを付けるという憧れ

 茫然とした男のロマンや泥臭い格好良さだけでは終わらせない、叶えたい目的を遂行する芯のある不良漫画。過去を変えて未来を変えるという物語の明確な目標こそが、わかりやすい大衆的なヤンキーものとして本作が大勢に受け入れられた要因でもあることだろう。

 主人公の武道や橘姉弟、そして彼を取り巻くマイキー、ドラケンら、信念と正義を掲げる不良少年たち。彼らによってこの『東京卍リベンジャーズ』という作品は、文字通り「新しい時代を作る」不良漫画として、連載が終わってなおこれからも、多くの読者に末永く愛され続けていくに違いない。

執筆:ネゴト / 曽我美なつめ

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