傷ついていないフリをしなければ生きてこられなかったあなたへ――人生を支配するトラウマの正体

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公開日:2023/2/8

trauma トラウマ 誰もが傷ついた心をもっている
trauma トラウマ 誰もが傷ついた心をもっている』(ポール・コンティ:著、レディー・ガガ:序文、田畑あや子:訳/かんき出版)

 精神的・肉体的苦痛を体験し、その後の人生にも影響を及ぼすトラウマ。よく見聞きする言葉だが、トラウマに苦しめられるほど自分は壮絶な経験をしていないはずだと思っている人は多いはず。

 だが、『trauma トラウマ 誰もが傷ついた心をもっている』(ポール・コンティ:著、レディー・ガガ:序文、田畑あや子:訳/かんき出版)に触れると、その考えが変わる。トラウマは誰にでも起こり得るもので、自覚なく、自身の中に植え付けられていることもあるのだ。

 著者はポートランドとニューヨークに心療内科専門クリニックを持ち、レディー・ガガの主治医としても有名。

 本書ではトラウマが引き起こされる理由やトラウマとの向き合い方を解説。実例や専門医との対談も交えつつ、トラウマがどのように人の心を破壊し、脳や体にどんな影響を与えるのかも徹底解説している。


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凄惨な体験をした人だけじゃない!トラウマは誰にでも起こり得る痛み

 トラウマは、「災害に遭った」「残酷な死を目にした」など、凄惨な出来事に遭遇したことが原因だと思っている人も多いだろう。だが、著者は私たちが思っているよりも、トラウマは自分事になりやすい身近なものであると指摘する。

 なぜなら、突発的な出来事から生まれる「急性トラウマ」だけでなく、子ども時代の継続的な性的虐待などから起きる「慢性トラウマ」、相手の苦しみを吸収して傷ついてしまう「代理トラウマ」、自分が生まれる前に両親や祖父母が経験したトラウマの影響を受ける「世代的トラウマ」など、様々な種類があるからだ。

 著者いわく、トラウマのキーポイントになるのは「恥」という感情なのだそう。人は自分ではコントロールできない状況に陥った時、「あんなことをすべきじゃなかった」「こんな風に感じるべきじゃない」と自身を責めやすい。

 しかし、このような恥がベースの考えはトラウマによる絶望感と無力感から生まれるものであると指摘。思考を恥に支配されると、自分を信頼できない、忍耐力や自制心が薄れる、親しい人の人生にも影響を与えるなど、生活をする上で様々な影響が出てくるそう。トラウマと恥は密接に関係しているから、まずは恥という感情と向き合うことが大切なのだ。

 著者が勧める対策は、トラウマ的な出来事について恥ずかしさを感じた時、それは本当に自分の恥なのかを自問すること。例えば、虐待が絡むケースでは被害者が恥の感情を抱いてしまうケースもあるが、本来、その感情を背負うべきは加害者だ。

 このように、恥の要因が自分以外の人間にあるのではないかと考えることはトラウマに苦しめられない自分を作ることに繋がっていく。

(中略)私たちはトラウマの存在に気づかない。自己不信や恥の感情がわいてくるので、何かがおかしいことはわかるが、あくまでも日常のなかのささいな違和感としか思わない。

 この言葉が胸に刺さる人は、自分でも気づかないトラウマを抱えてはいないか、それによって生きづらさを感じていないかと自問自答してほしい。

自分のやりたいことができない人に勧めたい「トラウマとの向き合い方」

 とはいえ、すでにトラウマを抱えている場合は、どうやって傷ついた自分を癒せばいいのだろうか。そんな難しい問いを解決するヒントも著者は与えてくれる。

 たとえば、やりたいことに挑もうとしても決断を下す段階になると、決まってトラウマによって自信喪失し「私には無理……」と思ってしまう人は、自分の中にある意見の葛藤を受け入れて声に出してみることが重要なのだそう。

 感情が絡み、自分についての考えに複数の意見がある問題に対しては、トラウマを抱えた部分から出てくる声が目立ちやすく、ネガティブな思考や疑問が湧いてくるのだそう。

 だが、その声に流されて決断をせず、時間をかけて、自分の中にある気持ちのどれが本物なのかを見極め、最終的に最善と思えるものを選択していくことが大切だと著者は訴えている。

 また、トラウマに立ち向かう時はひとりではなく、家族や友人、医師など味方だと思える人の助けを受けることもポイントのよう。本書には誰かにトラウマを植え付けないための社会的な解決法も綴られているので、周囲の人のトラウマ被害を軽減する方法も併せて学んでほしい。

 あなたが抱いている苦しみは偽物じゃない――。そう語りかけてくれる本書から、長きにわたる痛みとの闘いにピリオドを打つ秘策を見つけられるかもしれない。

文=古川諭香

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