統合失調症の妄想を描いた壮絶な1冊

更新日:2012/12/26

人間仮免中

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : イースト・プレス
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:卯月妙子 価格:900円

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『人間仮免中』というのは、明らかに太宰治の『人間失格』を意識したタイトルだ。ま、しかし、仮免なら路上運転はできるわけで、それほどに絶望的ではないと、私は読みながら思った。「人間免停中」となったらこうした作品も書くことができないからである。といってこの本が楽観的な内容だとは決していわない。

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破滅的な性格の「私」が、まともな社会的生活がかなわず、AV女優やストリッパーなどなどを経て、60歳の恋人を見つけるものの、その男性もやっぱりかなり偏向した性格の上にやばい過去を持っているらしく、30歳の年の差をもったカップルとしてそれなりに幸せながらも相当に穏やかでない暮らしを営みながら、やがて「私」の持病である統合失調症は悪化のきわみをたどり自殺未遂、顔面を複雑骨折のあげく、入院手術するするや被害妄想などの猛烈な妄想と幻聴と幻視に見舞われるというありさまを、赤裸に描いたコミックエッセイなのである。

壮絶な本だと世間の評である。

壮絶は壮絶にして、しかも読み手はひどく打ちのめされるには違いない。精神の病に激しくおかされると、こんなになっちゃうのかという驚きである。「まとも」な人がこの世に存在するのかどうかは知らないけれど、定期をたずさえて毎日なんなく電車に乗れる人間とははるかにかけ離れた「私」の生活は凄絶である。

そうした彼女の生活の追体験はある種の感動を確かにもたらす。すんごいのである。ことに後半に入っての院内でのすさまじいばかりの妄想の数々は強烈というにもあまりある。

しかし私小説なるものとはどんなに忠実に「私」を綴っても「架空の私」だ。「幻想の私」といってもいい。その「架空の私」と「現実の私」の距離が物語のおもしろさである。「私」を見つめる「私」の視線が醍醐味なのだ。その距離が本作では絶妙といっていい。悲惨の中にほのかなユーモアを漂わせているからだ。暗くない。

見事な本である。


自殺未遂のシーンから本編は始まる

30歳離れた男性通称ボビーに惚れてしまう

日々妄想の毎日

妄想から身を守るためこんな行動も

入院中の妄想も激しさを増す
(C)卯月妙子/イースト・プレス