モノを通して見えてくる、国籍豊かな男同士の関係を描く短編集

オノ・ナツメ

2013/1/5

Danza[ダンツァ]

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:オノ・ナツメ 価格:540円

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小道具の使い方が絶妙! 読んでまず思ったことです。本作は先日映画化した『のぼうの城』の表紙イラストを担当したオノ・ナツメさんの全6話の短編集。親子、兄弟、相棒、さまざまな男同士の関係が綴られています。話ごとに違う「2人」の関係を、魅力的なセリフや表情だけでなく小道具で描いていることにも注目して読んで欲しい作品です。

さて、私が注目した小道具の使い方ですが、第1話から取り出してみます。1話は両親が離婚して以来まともに顔もあわせず、疎遠だった息子と実父の話。共同経営していた父の親友が亡くなり、息子がブドウ畑の収穫を手伝いに来るところからスタートします。親子に戻るのが難しいならせめて友人にと願ってもそれすら難しいのが現実で、交わした言葉はごくわずか。そんな2人の関係を、長靴が上手く表現しています。作中の回想シーンで、手伝いに来た息子が革靴のままブドウ畑に入ったとき、父は「いいとこの坊ちゃんには似合わない仕事だ」と言います。2人が革靴と長靴で仕事をするシーンはちぐはぐな関係が表れています。

そして1年後の現在、長靴を用意してきた息子から伝わる歩み寄りたいという意図。しかし結果は前述の通りまともな会話も無い。黙々と手伝う息子は、作業が終わる頃に作業場の隅で新品の長靴を発見します。それは息子のためにと父が用意したものでした。使っていた長靴を片付けようとする息子に父が「その長靴…ここに置いておけばいい」という言葉をかけ、来年以降も共に仕事をしようという歩み寄りの始まりが示され、話が締められます。このように小道具でキャラクターの関係変化や心情が描かれており、作品に余韻を持たせています。

他の話を簡単に紹介すると以下の通り。
2話…仮面親子状態の父子に、自称タイムトラベラーの中年男が会いに来る。小道具は「釣竿」
3話…頑固な日本人義父とアメリカ人娘婿。娘婿とどう接すれば良いか分からず打ち解けきれずにいる。小道具は「箱庭」
4話…夏場、ジェラート屋の目の前を警備する警察官の話。小道具は「ジェラート」
5話…互いの顔を見るのも嫌がる仲の悪い兄弟が古城の地下に閉じ込められて…。小道具は「煙草」
6話…性格が正反対の警察コンビ話。小道具は「噂」

個人的には2話の「釣竿」や5話の「煙草」の使い方に痺れました。どんな風に使われているのかは、実際に読んでのお楽しみということで。小道具に込められたものを読み解いてみるのも、本作を楽しむひとつの方法かもしれません。


1話より。「いいとこの坊ちゃんには似合わない仕事だ」「母さんの再婚相手が資産家だっただけで…俺は何も変わらないよ」ちぐはぐな2人を示す革靴

1話より。やっと真正面から向き合えた2人の足元が長靴と革靴なのが良い演出。セリフはなくとも感情が伝わってきます

2話より。仮面親子状態の父子の、初めてのまともな会話。次に釣竿が出てくるときは涙腺が危うい

5話より。この後「大丈夫だった」と言って煙草をふかしたニヤリ笑いに、2人の兄弟仲が。煙草をつけるという動作1つで描かれる冷えた関係性
(C)オノ・ナツメ/講談社