自分の余命がもし10年だったら… 限られた命を精いっぱい生きる少女と、ミステリアスな少年の感涙ラブストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2023/3/18

10年後、もしも君の隣にいられたら。
10年後、もしも君の隣にいられたら。』(miNato/KADOKAWA)

 長くて10年、短くて数年。

 自分に残された時間がそれだけと知った15歳の少女すみれは、死ぬまでにしたい『100のことリスト』を作る。「高校生活を充実させる!」「バス通学をする!」……。それらの願いを、クラスメイトの潤と共に一つ一つ叶えていく。やがてすみれは彼に恋するようになり――。

『また、キミに逢えたなら。(ケータイ小説文庫)』(スターツ出版)で第9回日本ケータイ小説大賞を受賞。以降、数々の恋愛青春小説を放ってきたmiNato氏。生きることの苦しさと尊さ、誰かを好きになることの喜びとせつなさを、感情をゆさぶる文章で綴り、多くの読者の胸を掴んできた。

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 最新作『10年後、もしも君の隣にいられたら。』(KADOKAWA)は、限られた命を生きる少女と、ミステリアスな少年が織りなす心震えるラブストーリーだ。

 主人公すみれは生まれつき心臓の病気を患っている。そのため、幼い頃から入退院を繰り返してきた。晴れて高校生になったものの、余命10年という診断を下され、常に死を意識しながら日々を送っている。

 そんな彼女の前に現れるのが、ぶっきらぼうな少年・潤だ。高校に入学する前、入院していた病院で、誰かのお見舞いに来ていたらしい彼と出会った。具合の悪くなった自分を介抱してくれた彼のことが、すみれはずっと忘れられなかった。その潤と同じ高校の同じクラス(しかも席は前と後ろ!)になり、動揺を隠せない。

 交流キャンプの実行委員を共に務めることになったのを皮切りに、少しずつふたりは距離を縮めていく。

 クールで不愛想、どこか超然とした雰囲気のある潤は、周囲から近寄りがたい人物と思われている。だけどすみれは、彼のなかにある優しさを感じとる。キャンプでもさりげなく自分を気遣い、案じてくれた。死ぬまでにしたい『100のことリスト』を打ち明けたら(余命のことは秘密!)協力もしてくれた。そうしていつしか、潤のことをたまらなく好きになっている自分に気がつく。

 倒れたすみれを潤が“お姫様だっこ”する場面や、ふたりで海に行くシーンなど、随所に織り込まれている胸きゅん要素が微笑ましい。それでいて物語の底には「死」の気配が漂っている。難病であるすみれはもちろん、兄が事故に遭い昏睡状態にあるという潤もまた、誰とも分かちあえない苦しさを抱えていた。

 生と死は隣り合わせ。その実感が彼らを結びつけてもいる。

 潤と一緒に生きていきたいと願う気持ちと、何もかも諦めた方がいっそ楽になるという気持ち。どちらもすみれの切実な本心だ。そんなすみれを潤は「胡散臭い」となじる。本気で彼女をなじるほど、潤自身も気づかないうちに、すみれのことをもっと知りたいと思うようになっていたから。

 すみれ視点で進んでゆく物語は、最終章で潤視点に切り替わる。そこで、潤がずっと内に秘めていた謎が解き明かされる。クールで大人びて、何に対しても動じることのない人間だと思われていた潤の、意外な素顔も。

 苦しみを抱えたふたりが出会い、ぶつかりあい、惹かれあうなかで変わり、成長していく。そんな少年少女の姿がみずみずしく描かれている。すみれの母親をはじめ、彼らを見守る親世代の心情もこまやか。親子で読んで感想を語りあうのも楽しそうだ。

文=皆川ちか

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