【カンヌ正式出品】監督・是枝裕和×脚本・坂元裕二の初タッグ! 話題必至の映画『怪物』のノベライズ版が登場!

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/5

怪物
怪物』(宝島社文庫 坂元裕二:脚本、是枝裕和:監督、佐野晶:著/宝島社)

 読後、呆然。しばらくその場から動けなかった。数日経った今でも、この物語のことを思い出しては胸がキュッと痛む。間違いなく、この作品は、世界を席巻するに違いない――。

 そう思わされたのは、6月2日に公開予定の映画『怪物』のノベライズ版『怪物』(宝島社文庫 坂元裕二:脚本、是枝裕和:監督、佐野晶:著/宝島社)。『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督が、「今一番リスペクトしている」と語る脚本家・坂元裕二氏と初タッグを組んだ注目作を、小説として味わうことができる一冊だ。映画『花束みたいな恋をした』やTVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』などで知られる坂元氏は、是枝監督とともに圧倒的な人間ドラマを生み出した。映画では、先日亡くなった坂本龍一氏が音楽を担当。安藤サクラさん、永山瑛太さん、田中裕子さんら豪華な俳優陣が出演。さらに第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されるというから、見逃すことができない。6月2日の公開まで待てないという方は、ノベライズ版でいち早くこの衝撃を味わってほしい。累計49万部突破の『そして父になる』や累計21万部突破の『万引き家族』(ともに宝島社文庫)など、是枝映画のノベライズ版は毎回大きな話題を呼んでいるが、この作品もまた注目を集めるはずだ。穏やかな日常と忍び寄る暗い影。社会の片隅の名もなき人々の葛藤をあなたはどう受け止めるだろうか。

 物語の舞台は、大きな湖のある郊外の町。シングルマザー・麦野早織には、小学5年生の息子・湊がいた。自分の部屋を持つようになり、だんだん大人になっていく湊に不安を感じつつも、早織は穏やかな日々を過ごしていた。だが、次第に不穏な空気が立ち込めていく……。ある時、湊は自分で髪を切ってしまったり、またある時は、湊のスニーカーが片方なくなっていたりということが起こる。しかも湊は明確な説明をしてくれない。もしかして、いじめられているのだろうか? 学校に相談に行こうにも確証はない。さらにある日、仕事を終えて早織が帰宅すると、湊の姿はなかった。誰も近寄らないような鉄道跡地で聞こえる、ひどく嬉しそうな湊の声。「か~いぶつ、だ~れだ?」。怪物とはいったい、何なのか? そして、早織と湊の身に、さらなる事件が巻き起こる――。

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 子どもを持つ身として、早織の気持ちが痛いほどわかる。自分から生まれ出たはずなのに、自分は親だというのに、どうしてこんなにも子どものことが理解できないのだろう。子どもに降りかかる苦しみは全て全力で取っ払ってやりたいが、そもそも何に苦しんでいるのかさえ掴めない。早織の不安に共感するとともに、それに飲み込まれそうになる。

 だが、この物語はそれだけではない。湊が苦しむ原因は「子どもの諍い」に違いないと思って物語を追っていけば、どうやらそうではないらしい。どんどん不気味さを増していく展開に唖然。湊の身にいったい何が起きているのか、なかなか掴めなくて歯痒い。背筋が凍るようなゾクゾク感と、足元の水位が増していくような不安感、息苦しさ。やがて、子どもと大人の食い違う主張が、学校や社会、メディアを巻き込む一大事になっていくのだった。

 読み終えた時、当初は気づくことができなかった真相に、愕然とさせられた。今まで自分は何を見てきたのだろうか、と。もしかしたら、わかりやすい構図に落とし込んで、物語を読み進めてしまったのかもしれない。そしてさらに気づくのだ、リアルな日常でも勝手な思い込みで、世の中を見てしまってはいないだろうか、と。大切な人が、身近な人が傷つく理由を履き違えてはいないだろうか? そうゾッとさせられる。

「そんなの、しょうもない。誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない。しょうもないしょうもない。誰でも手に入るものを幸せって言うの」

 物語終盤、ある登場人物の、そんな言葉が胸に響いた。幸せとは何か。普通とは何か。この物語は、想像力を掻き立てられ、心を揺さぶってくる。早く是枝監督の映像を見たい! ノベライズでも映画でも、きっとあなたはこの“怪物”に打ちのめされるだろう。“怪物”探しの結末に、世界中が圧倒させられるに違いないのだ。

※「怪物」の結末は映画公開まで“秘匿”でお願いします。

文=アサトーミナミ

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