『富江』や『うずまき』の伊藤潤二による最悪かつ珠玉のホラーアンソロジー
公開日:2013/1/15
テレビドラマ化ならびに映画化された「富江」シリーズや、こちらも映画化された『うずまき』など、摩訶不思議で狂気渦巻く独自のホラーワールドを描き続ける鬼才・伊藤潤二による「闇の声」シリーズ第2弾。最悪かつ珠玉のホラーファンタジーが7つ収録された短編集です。
表題作の「潰談」は「カイダン」と読みます。「怪しい物語」ではなく「潰れる物語」。
ある意味、芸術的なグロさが光るこの物語をはじめ、ファンには親しみある狂ったキャラクターが登場したり、どこか色気がただよう耽美的な物語があったり、美女モノがあったりと、どのタイトルもビビッドで奇想天外。キモチワルイのにまた読んでしまいたくなる、氏の作品ならではの中毒性にやられてしまいます。
避けるための手立てがない恐怖。つまり、理不尽な恐怖ほど怖いものはありません。本作では、原因がはっきりとはわからず恐怖から逃れることができない、そんな登場人物たちの困惑し絶望する様を通して、世の中の理不尽さや人間の業のようなものがあぶりだされています。
学校教育において、現在は個性を伸ばす教育に重きが置かれていますが、戦前や戦後しばらくは管理的な教育があたりまえのように全国で見られました。管理教育のよさは子どもたちを効率的に統制できることにあるとされますが、一方で個人の主体性を損ない、ときには理不尽を強いることもしばしば。しかし、この“理不尽を耐え忍ぶ力”こそが、国家や社会のために生きるともされていました。
管理教育の是非はさておき、実社会では昔も今も理不尽な目にあうことは珍しくありません。「もし自分がこんな恐怖に巻き込まれたらどうするか」なんて想像しながら理不尽な恐怖に戦慄してみていただきたいと思います。
「双一の愛玩動物」から。「双一」シリーズなどでファンに親しみ深い双一と猫の奇妙な物語
「幽霊になりたくない」から。夜中の山道を車で走っていると、闇の中にひとりいた少女。これはいかにも…幽霊?
「潰談」から。「何?…これ…」と壁にへばりついている不思議な物体を眺める友人たちだが…
(C)伊藤潤二/朝日新聞出版