結婚=幸せ?人生のハッピーエンドって本当にあるの?人生の岐路に立った時は『女子マンガに答えがある』

マンガ

公開日:2023/5/26

 多すぎる選択肢の前で身動きがとれずにいる読者のために女子マンガがある。

女子マンガに答えがある 「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(トミヤマユキコ/中央公論新社)の序盤の文章だ。目にした瞬間、「ああ、今の私もそうなのかもしれない」と力が抜けていくような感覚に陥った。

 今年、夫が海外赴任をすることになり、キャリアを一度手放してついていくのか、東京でひとり住まいの部屋を借りるのか、実家のある大阪に住民票を移すのか、悩みに悩んで、「もう選びたくない」と叫びそうになった私に語りかけてくるような言葉だった。

「女子マンガ」とは「少女マンガ」ではない。女子マンガ研究家の小田真琴さんが雑誌『FRaU』(講談社)の特集で「絶望を知ってしまった少女たちが、現実を肯定し直すため」に読む漫画のことを「女子マンガ」と名づけ、以降女子マンガや大人女子マンガといった括りが生まれたという。自分と同じような悩みをかかえる等身大の女性たちは、何もかもを許容してくれるヒーローによって救われる少女漫画の従来のヒロインとは異なっており、読んでいると彼女たちとガールズトークをしているような気持ちになる。

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 彼女たちを見ると、自分と同じように苦しんでいる人がいると励まされたり、「私はこのままでいいんだ」と前向きになったりするのだ。人生は選択の連続だ。どの道を選べば良いのか悩んだとき、「自分なりの答えを見つければいいんだ」と自信を持たせてくれるのが女子マンガのヒロインたちなのだ。

 本書に3回登場する『ハッピー・マニア』『後ハッピーマニア』(安野モヨコ/祥伝社)のシゲカヨを例に挙げたい。彼女は「(恋愛に)ハマる女」「貧しい女」「幸せな女」の章でピックアップされている。

「彼氏がほしい!」と恋愛をして失敗すると新たな恋愛に、と勇者のように挑み続けるシゲカヨは、収入の安定しない貧しい女でもあるが悲壮感はない。ほかの漫画にはないキャラクターであり「幸せな女」の章を読むと、シゲカヨは、今まで少女マンガの読者たちが信じていた「結婚=ハッピーエンド」という概念を根底から覆す存在だと気づかされる。

 あくまでもこれは本書を読んだ私のシゲカヨ考だが、『ハッピー・マニア』で20代だった彼女は結婚を幸せだと感じてはおらず、とにかく心がふるえるような恋愛がしたいと願う。彼女の20年後を描いた『後ハッピーマニア』では40代半ばで夫に離婚を切り出されて、再び「貧しい女」となっている。

 不安定な立場で加齢による体力の低下を感じながらも、シゲカヨの根本は変わっていない。焦りや不安を感じつつもサバイバルするシゲカヨは健在で、私たちは彼女がステレオタイプの「幸せな女」ではないと知りつつも、なぜか勇気づけられるのだ。

 恐らく結婚を選んだあとのシゲカヨの人生の選択肢は狭まっていた。しかし結婚生活から抜け出したことで、彼女は再び人生を選べるようになったのだ。もちろん20代のころより選択肢は少なくなっているし「それしか道がない」と言い換えることもできる。しかしシゲカヨは、間違いなく自分で選んでいる。夫の心が自分にないと知って手を放したのも、あることを機に探偵のバイトをしようと思ったのも、彼女が自分で決めたことだ。選択肢が多くても少なくても、私たちがシゲカヨに惹かれる理由はそこにあるのだろう。

 シゲカヨだけではない。本書を振り返ると多くの漫画に登場する女たちは等身大の「私たち」だ。だからこそ彼女たちの行動に、私は背中を押してもらえたような気持ちになる。そしてまた、本書を読むといろいろなヒロインを分析したいという気持ちも生まれる。

 人生の岐路に立ったとき、または立つ前に、本書をぜひ読んでほしい。かならず得られるものがあるはずだから。

文=若林理央

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