心霊、犯罪者、狂気…身近な恐怖に彩られた12の物語

小説・エッセイ

2013/1/19

怪談歳時記 12か月の悪夢

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:福澤徹三 価格:583円

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唐突だが、こんな料理店を想像してみてほしい。
表通りから一本入ったところにある、こぎれいな門構えの和食料理屋である。板前は無口ながら、たしかな技倆の持ち主。旬の素材をいつでも仕入れてきて、繊細な料理法で提供してくれる。そのうえ店の雰囲気がいい。緊張感はあるのに、へんに格式張ったところはなく、学生グループから若いカップル、味にうるさい中高年までが足繁く通ってくる。美味そうだな、と思って注文した料理はどれもこれもすべて美味い。迷ったらついつい足を向けてしまう、そんな料理店だ。

もしこんな店があったら、行ってみたいなあ、と思うでしょう? わたしにとって福澤徹三という作家は、まさにこんな店のような存在である。怪談小説『幻日』でデビューして以来、今日まで怪談実話、ホラー、コメディ、ノワール、エッセイと幅広いジャンルで活躍してきた福澤徹三だが、これまで一度として期待を裏切られたことがない。つくづくその丁寧な仕事ぶりには、頭が下がるのだ。

今回紹介するのは『怪談歳時記 12か月の悪夢』。
その名のとおり、睦月から師走まで、各月を舞台とした12の恐怖短編を収録した、怪談小説集である。1月の「鬼がくる家」は祖父母の家で迎える新年、2月の「雪の下の蜘蛛」はバレンタインデー、7月の「おどろ島」が大学の合宿、8月の「精霊舟」が同窓会、といった具合に、四季折々の風景とともにバラエティ豊かな恐怖の世界が描かれてゆく。怪談は日々の暮らしと密接に関わっているもの。怪談シーズンといわれる真夏だけではなく、春には春の、冬には冬の怪談があることを、本書を読めばよく分かるだろう。

怪談においては、まず何よりも「怖いこと」が絶対条件として求められる。どんなに小説として優れていても、キャラクターが魅力的でも、怖くなければ怪談小説としては期待外れのものとなってしまうのだ。その点、本書は怖いもの見たさ、という読者の期待にもしっかりと応えてくれている。異界・霊界からの侵入者を描いた「鬼がくる家」「卒業写真」のようなオーソドックスな怪談はもちろん、犯罪者・サイコキラーの怖さを描いた「迷える羊」、より直接的な死の恐怖を扱った「五月の陥穽」、語り手が狂気に接近してゆく「九月の視線」「紅葉の出口」などなど、さまざまなパターンの恐怖を網羅。よほど心臓の強い人でも、きっとどこかで怖さのツボを思いっきりぶっ叩かれるはずだ。

キャラクター設定のリアルさにも着目したい。いじめに遭いながらも家族のために会社に居座りつづけるサラリーマン、東京生活で垢抜けた姿をかつての同級生たちに見せつけようとする田舎の女子大生、お局様を自称するひとり暮らしのOL、家族サービスにくたびれ果てた男…。福澤徹三の小説には、完全無欠のヒーローは登場しない。皆、日々の生活のなかで心身をすり減らしている、わたしたちとよく似た境遇の「普通の人々」だ。それがふとした瞬間、魔に魅入られ、向こう側へと転落してしまう。福澤作品が怪談としてはもちろん、小説としても読み応えを感じさせるのは、こうした巧みな人物描写によるところが大きい。
いよいよ始まった2013年。移り変わる四季を、鮮やかな恐怖で彩ってみるのは如何?


目次より。「鬼がくる家」は1月にぴったり

目次より。「幽霊たちの聖夜」はクリスマスのラブホが舞台

「鬼がくる家」冒頭。小学生の裕太は母の田舎で年越しをするはめに

「迷える羊」は不気味な犯罪小説。主人公は見知らぬ車で目を覚ます

「九月の視線」は29歳OLがマンションで怪異に遭遇する