大映テレビ的なドロドロで大げさで通俗的なフォルムにもられた世界最高の文学

小説・エッセイ

2013/1/19

カラマーゾフの兄弟 〈1〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 光文社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフス 価格:756円

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『カラマーゾフの兄弟』がテレビドラマになったらしい。

それを聞いて、「よりによって世界に冠たるあの大文学を、テレビドラマなんぞにしさらして」と息巻くやからは、「ドス読み」としてはまだ「青い」。

「ドス読み」のプロというか「黒」ならこう考える。
「いいじゃない。ドストエフスキーほどテレビドラマむきの小説はないでしょ。ていうか今までなんでみんなやんなかったわけ? ただ問題はですね、ちゃんと大映テレビがやってくれてんのかどうかだよ」

大映テレビといえば、「不治の病」が「不死の病」じゃないのかと思いたくなるくらいなかなか死なない山口百恵主演の「赤い」シリーズや、「家政婦は見た」シリーズを生み出したテレビ制作会社だ。要するにリアルさよりもショッキングな展開を狙う、ベタベタのドロドロタイプのドラマ作りを得意としている。

でもって、ドストエフスキーのフォルムって、超がつくほど、というか昨今ふつうのものにまで超がつくので超のもつ火事場の馬鹿パワーは落ちているから、超をつけないでいうと、素っ頓狂に通俗的なんである、ドストエフスキーは。

『カラマーゾフの兄弟』がどんな話かっていえば、強突張りで強圧的で、金の亡者でイロ狂い、そういうオトッツァンに育てられた息子が3人と、下男みたいな男がひとり、ひとつ屋根の下に暮らしている。

放蕩の限りをつくすも純真な心根も持ち合わせた複雑怪奇な人格の長男ミーチャ。インテリにして危険なほどの無神論を抱えたイワン。性善説を心の底から信じ、温かい気持ちと厚い信仰心にもえる三男アリョーシャ。陰湿で疑い深く人を破滅させるようなどす黒い魂を宿した下男。こんな等身大の人間を越えた極端すぎるキャラクターの4人組の間に、激烈な葛藤や苦しみが巻き起こらないはずがない。現に、ひとりの女を父と長男が取り合うなんて出来事がおっぱじまる具合だ。

間違いなく「赤いシリーズ」というか、カラマーゾフってロシア語で「黒く塗る」っつう意味らしいから、「黒い」シリーズね。

そしてお待ちかねの殺人事件がちゃんと起こる。父親のフョードルが殺されるのだ。犯人は誰か、テレビドラマならこれは欠かせない。

ミステリーの嚆矢は1841年の『モルグ街の殺人』なので、1879年に『カラマーゾフの兄弟』を連載し始めたドスエフスキーは、純文学の中にミステリーという新しい形式を組み込むことを発明したわけである。

泥沼に脚を突っ込んだような愛欲劇と、犯人は誰かのミステリー趣向にぐいぐい引かれて読んでいくと、実にもうなんというか、度はずれたものの考え方や、見たことも聞いたこともないけったいな独白やらに出会って、打ちのめされてしまう、それがほんとうのドストエフスキーの魅力だ。


父フョードルは狡猾かつ吝嗇の酔っ払いだ

本編の氏主人公ともいえるアリョーシャ。粘り着くような文体も魅力的である

イワンが抱く危険なまでの無神論

ひねくれの塊のごときスメルジャコフ影の主人公でもある