【「このマンガがすごい! 2013 オンナ編」第7位】夫が妻に与えた、雪の季節に成るりんごがひとつ。凍っていた村の禁忌が動き出す…

更新日:2013/1/23

千年万年りんごの子(1)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:田中相 価格:540円

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「このマンガがすごい! 2013 オンナ編」第7位、 第16回(2012年)「文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞」受賞、というW受賞の気鋭の作品が電子書籍でも登場です。表紙のりんごがおいしそうだと思いながら読み始め、読後に思わず表紙を見返してしまいました。りんご農家を営む主人公夫婦の背後を飾る赤色に、思わずぞくっとしてしまいます。

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雪之丞(ゆきのじょう)は東京の寺で拾われ育った捨て子。その生まれが彼の行動を支配しています。深追いを避け荒波を立てないように過ごし、良心的な養父母に対しても一歩引き気味でした。そして見合いの席で出会う、朝日というりんご農家の娘。人手(婿)がほしい朝日、早く家から出たい雪之丞、2人の条件が合致しすぐさま結婚。明るくのびやかで芯の強い朝日と共に暮らすうちに、雪之丞は貼り付けた笑顔ではなく本物の笑顔を浮かべられるようになっていきます。農業という、ひとりでは完結できない、他人と繋がらざるをえない仕事から心の隙間風を埋めていく青年の物語と思ったらところがどっこい、中盤からりんごを絡めたファンタジーの扉が開かれます。

雪之丞はひょんなことから村人たちが祭る「おぼすな様」の木から、禁忌と知らずにりんごをとって風邪で寝込んだ朝日に与えてしまうのです。大学院にも誘われたという勉学派の雪之丞は「非科学的だ」と、村の禁忌を迷信の類だと思おうとしました。しかし「一晩で髪と爪がありえないほど伸びる」という朝日の変化を目の当たりにします。雪之丞は禁忌のりんごを食べ「メタテ」という存在になった朝日がどうなるのかを心配するのですが、しきたりだからと教えてくれません。「大丈夫」だと明るく笑う朝日ですが、果たして彼女の運命は…と、ここからはぜひとも本編を読んでお楽しみください。

消費社会の現代人と比べて「土地と共に生きる」という意識の強い農家ならではの言葉や、じわじわと不安を煽るサスペンスファンタジー要素など、ひとつのストーリーで2度おいしいのが嬉しいところ。今から2巻発売の春が待ち遠しい作品です。


仲介人のお愛想話をぶった切る朝日。「入り婿さ来てください!」という言葉に雪之丞は心中でぽかーん。しかし2ページ後には入り婿を受諾、仲の良い夫婦になります(笑)

死者は大地に帰って実りとなる。朝日の語る「繋がっていく命」は、生まれてすぐに捨てられていた雪之丞の心の隙間を埋めていく

森で見つけたりんごを朝日に与えたといった瞬間の家族の反応。初めは迷信だと思っていた雪之丞でしたが…

目に見えて現れた朝日の異常。爪と髪が一夜ではありえないほど伸びています
(C)田中相/講談社