3人の女子アナの激しい無常感、不幸感。でも読み進まずにはいられない1冊

小説・エッセイ

公開日:2013/2/4

オンエア〈上〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:柳美里 価格:679円

※最新の価格はストアでご確認ください。

芥川賞作家でもある柳氏の作品ということで期待しつつそろりそろりと表紙を開くこと数秒…。「?!?!?!?!?!」。冒頭部第1章、3カップル三様のセックスシーン。オンエア8時間前、<ニュースEYE>のプレゼンテーターたちのそれぞれの逢瀬の形。その唐突さと、執拗に長く続くベッドシーンに相当な嫌悪感を抱きつつ読み進めたのは確かです。

advertisement

後から、この冒頭部こそ、この小説の絶妙な無常観というか、やりきれなさ、不幸感を増長するのにどんなに役立っているのかと気がつくのですが。まるでブログをつづるように簡単で安易でコロコロと移り行くひとりの女の思考形態。体と心のバランスがどんどん崩れてゆく不安。人気ニュースキャスターの歪んだセックス、お天気キャスターのストーカーと化した元恋人。大リーガーになるかという野球選手とこっそり付き合うスポーツキャスター。女子アナという華やかな世界にこそできる深く湿った影。ノイローゼで自殺してゆく女。やりきれない気持ちで読み進めますが、文章がどんどん先に進んで「乗っけられて」しまう勢い。なんてすごい作家なんだと圧倒されるのでした。

全体に流れる不幸なメロディ、やりきれなさ、寂しさ、起き上がれない朝のような小説。電車の中吊りを読むような安直な設定でありながら、読者をその中心に持ってきて離さない文章の巧みさは圧巻です。小説に流れる時間や表現が現実のネットや携帯電話とシンクロし始めた、というような気持ちがしました。ちなみに私はどの登場人物にも感情移入できなかったにもかかわらず、一気に読みきってしまいました。30代からの女性におすすめかも。わかりやすく読みやすい1冊ですが、読後感は相当にヘビーです。


全編のスピード感を決定づけている、エアスポットのようなフレーズがあちこちに

結婚・出産で引退した女子アナ長江春菜は育児ノイローゼに

冒頭部から続くセックスシーン。相当げんなりします