読んだら和菓子が食べたくなる! ハートウォーミング和菓子ミステリー

小説・エッセイ

公開日:2013/2/7

和菓子のアン

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 光文社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:坂木司 価格:702円

※最新の価格はストアでご確認ください。

もう、今すぐデパ地下に走って和菓子屋さんに飛び込みたい! 食べたいのはもちろんだが、その前に商品をひとつひとつ、じっくり見たい。その和菓子の名前が知りたい。そして「ああ、これが『和菓子のアン』に出てきたアレか」と納得したい! 読んだらもう、いてもたってもいられずに和菓子を買いに行ってしまう、これはそんな連作集だ。

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主人公は、高校を卒業してデパ地下の和菓子店で働き始めた、ちょっと太めの梅本杏子。食べるのは大好きだけど、和菓子の知識なんてまったくなかった杏子は、見ること聞くことすべてが新鮮、すべてが勉強。個性的な同僚たち──美人なのに中身はおっさんの店長、イケメンなのに中身は乙女の男性社員、元ヤンの女性バイト──に囲まれ、いろいろ教わりながら店頭に立つ日々だ。

読者は杏子と一緒に和菓子について少しずつ知っていく。ケーキはもちろんティラミスからマカロンに至るまで流行も多い洋菓子に比べ、和菓子はいまひとつ地味だなあとか、和菓子って結局アンコでしょとか、もしもあなたがそんなふうに思っているならぜひ本書を読んでいただきたい。和菓子が持つ物語の豊穣さに驚くぞ! そして洋菓子と和菓子の何が最も違うのか、それが本書で語られるくだりには思わず膝を打った。こんな文化のある国に生まれて良かった。ありがとうニッポン。ありがとう和菓子。

しかも本書は、どの話もミステリー仕立てになっているのが楽しい。客のふとしたひとことから遠距離恋愛中であることを推理したり、デパートに入っている他のテナントの事件を見抜いたり。そしてそこにあるのは「へえ、和菓子ってそうなんだ」「ええ、デパートの裏側ってそんななの?」というお仕事小説ならではの情報だ。特に和菓子は謎解きの重要なアイテムになっている。ひとつ事件が解決するごとに、杏子は和菓子店の店員として少しずつ成長する。

仕事は和菓子ほどに甘くはないけど、それでもへこたれず、明るく笑う杏子がいい。ハートウォーミングで美味しい連作ミステリー、ぜひ、和菓子と一緒に味わってみて下さい。


目次から各章に飛べるほか、あとがきも単行本時と文庫化時の2種類を収録

文庫版後書きには、装丁や文庫解説者への謝辞があるが、電子書籍には表紙も解説も収録されていないのが残念。載せようよ!