漫画界の詩人! 美しく儚い短編。これはもはや我が国の財産である!

公開日:2013/2/22

12色物語 (上)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 潮出版社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:坂口尚 価格:432円

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日本はアニメ大国だ、と言います。虫プロがテレビまんがをやり始めてから50余年。世界に影響を与えたアニメ作品は数知れません。ちょうど50年前です。そんなジャパ二メーションの源流とも言える虫プロに、なんと高校生にして入社試験をパスした人物がいました。しかも描いたカットはたったの3枚。それが本作の著者・坂口尚氏であります。

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もしかしたらご存じない方も多いかもしれません。かくいう自分もつい先日まで、不勉強なことに存じていませんでした…。しかし、だとすれば!! ぜひこの機会に読むべき漫画だと断言しておきましょう!! いやもう、マジですよ。

のっけから驚愕。これほどまでに情感に富んだ線があるものかと目を疑いました。そりゃ虫プロも受かるわと。卓越した線。儚くも創造的に途切れた線。水のように表情豊かな線。漫画なのですが、ある種ドローイング作品を観るような気分に陥りました。画面に劣らず、各話の作りも独特。

本作品を発表した当時、「漫画界の詩人」と評されたそうですが、それもそのはずです。12色の色をモチーフとした叙事的な短編は、詩と評する他ない出来栄え。詩は改行によってその文を拡声するそうですが、本作は絶妙な間で同様の境地に到達しているように思います。タダの静止したコマと読み飛ばすのは早計です。コマのなかはシンプルに描かれています。言ってしまうと、タダの静止のコマでしかありません。がしかし、伝わってくる情報量が凄い。確かに、タダの静止したコマには違いないんですが、そこに心情や空気、音までもがありありと表れているかのように感じるのです。変な話ですが、なんで分かったのオレ!? というくらいです。

また、バシッと収まった見開きも見所ポイント。画面がやたらデカく感じる上に、止まっているのにGIF画像のように僅かに動くような気が…。執拗に描き込まれた絵の連続でも、濃密なセリフの羅列でもない。おそるべし“まんが”!! 紛うことなき傑作です。


斬新すぎる冒頭

シンプルな画面に、描き込まれる心情

完全に動いてます
(C)坂口尚/潮出版社